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第10話 媚薬 ♥
「今宵は私をお召しになっていただけますか。」
ただ座っているだけという苦行をすること5時間ばかり、耳が麻痺して痛みも感じられなくなった頃パーティは終わった。
伯爵はたくさんお酒を飲んでいて、多分今日はこのまま寝てくれると思ったら、最悪なことに夜伽を命じられる。
男爵の安否が分かって少し嬉しかった俺の気持ちが沈む。
俺の他にレリエルとカシエルも呼ばれた。
ああ、面倒。頭も耳も痛い。
酔っぱらっていて足元がおぼつかない伯爵をレリエルとカシエルが支えた。
俺はヒールが高い靴なので歩くのが精いっぱい。三人の後をついて行く。
伯爵の寝室に入り天蓋付きのベットに腰掛けるように言われる。
雪の女王の衣装は身につけたまま。装飾品が重いし痛い。
耳飾りだけでも外したい。
酔いが回って赤くなっている伯爵が膝まづいて俺の手の甲にキスをする。
また何かの芝居をする気だ。
「女王様、本日は私めにお付き合い頂き大変うれしゅうごさいました。」
好きで付き合っている分けでもないし、とりあえず早く解放されたい。
えっと…なんて言うんだ。ああ、そうだ。
「今日は私も楽しかったわ。ありがとう、アルブレヒト。」
伯爵の望む答えだったようで目を輝かせる。
俺の両手に頬を擦り付けてきた。酔ってるせいか異常に温かい体温が伝わってくる。やめてほしい。
ひとしきり擦り付けられた後、俺に硝子の小瓶を渡して来た。
「今宵は女王様にも悦んでいただけるよう用意いたしました。どうぞお飲みください。私の分もございます。一緒に楽しみましょう。」
怪しげな小瓶を渡されて、困惑する俺。
飲んでよいものなのか、伯爵の後ろにいるレリエルとカシエルに目を遣ると二人とも首を横に振っている。
どうしよう。多分これは媚薬の類。
飲むふりで誤魔化すことは出来るのだろうか。
躊躇う俺に伯爵が顔を近づける。
「さあ、私めが飲ませて差し上げましょう。」
気持ち悪くて思わず顔を背けた。
いつもと違うレリエルの声が部屋に響いた。
「今宵は私をお召しになっていただけますか。」
半裸になっているレリエルが今まで見たことがない魅惑の笑みを浮かべる。
顎元で切り揃えられた艶やかな黒髪を掻き上げ、伯爵に誘惑の眼差し向ける。
いつもは取ることのない胸に巻かれた白く長い布が静かに剥がれ落ちた。
少年のような細い肢体にあるミステイクに膨らんだ胸。
俺から奪い取った小瓶の液体がその胸に流しかけられる。
てらてらと濡れた胸部を伯爵に捧げた。
「伯爵様どうぞ私の胸でお飲みください。」
彼女のサディスティックを孕んだ緑の瞳が伯爵を見下ろす。
その残忍な輝きに伯爵が魅了される。
「レリエル。私はお前が美しいことを忘れていたようだ。」
伯爵の醜く肥えた体が彼女の細い肢体に覆い被さる。
後ろ手でベットから降りるように指示された。
部屋に響く水音。もう一本の小瓶も掛けられ醜く吸い込まれる音が長く続く。
無駄な肉がない細く長い手足が伯爵に絡みつく。
彼女から発せられる男を興奮させる為の喘ぎ声が部屋を覆う。
隣にいるカシエルの爪が片方の腕に深く食い込んでいる。
耳を塞ぐことも叶わない俺は早く終わる事だけを願っていた。
彼女を蹂躙しつくして伯爵は眠りに落ちた。
伯爵が眠っているのを確認してレリエルがベットから降りて来た。
彼女の独り言が静かな部屋に続く。
「ミカエルの為にやったわけじゃないのよ。」
「パーティの客からプレゼントなのよ、あの小瓶。」
「毒でも入っていれば良いと思っただけ。」
凛として気高いレリエル。
優しい言い訳しないで、もっと悲しくなるから。
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