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第21話 『カシエルの後悔』② 決心
「君にも使ってあげようか、俺の力…。」
夜伽にも呼ばれることなく1か月が過ぎたカシエル。
何もするわけでもなく、本を読んだり、屋敷の片付けを手伝ったりと暇をつぶしていた。
進んで伯爵の相手をしたいわけでもないが自由に外出することも出来ない生活が少し辛くなってきた。
仲間と言える少女達との仲が良いということが唯一の救いだった。
月の終わりになって愛妾の序列が書かれた紙が手渡された。
10人ほどいる愛妾達。仲が良いとはいえ気になるものだった。
彼の序列は9位。一度も呼ばれていないが迎入れられてからの日数が短いからだ。
迎入れられた日にち、夜伽の回数で序列が決まり、伯爵に全く呼ばれなくなったものは一定期間を過ぎると解雇になる仕組み。解雇された際は男娼屋に売られるか、別の貴族へ下げ渡されるか。そもそも下位のものが上に上がるのも難しいらしい。伯爵は気に入った愛妾を続けて呼ぶことが多く上位5名はほぼ確定しているという。
1か月居ても一度も呼ばれない彼。
何故なのかとずっと考えていた。
まず、容姿の問題なのかと考えた。瞳の色合いも髪色も地味で他の少女達に比べて見劣りはする。しかし、田舎で出会い対面し王都にまで連れて来るということは気に入らない顔をしているわけでもないはず。
近頃は髪も伸びてきて鏡を見ると女の子に見えなくもない。ただもう少し女性らしい仕草を学ぶ必要はある。
得意な話術で籠絡しようにも夜伽には呼ばれない。話せれば籠絡することが出来ると思うのに…。
この順位を競うなど下らない。しかし、ここにいるなら競わざるを得ない。
窓辺で序列表を見ながら深く考え込む彼にレリエルが声をかけた。
「悔しいの?カシエル。」
珍しく優しく話かけてきた彼女に驚くカシエル。
待機部屋に居る時の彼女は高圧的な物言いで、若干怖い。
とてもこの仕事が向いているとは思えない彼女。
不思議なことに序列では3番目に入っている。
「悔しいと言えば、まあ…そう。でも俺は夜伽には呼ばれないし、何故ここに連れて来られたのかを考えていた。」
レリエルが彼がここに連れて来られた経緯を聞いた。
聞き終わって彼女は悲し気な表情で答えた。
「あなたは、前の主人に愛されていたから連れて来られたのよ。」
彼女の言葉に目を見開く彼。
彼を慈しんでくれた女主人。別れる際に流していた涙は本物だった。
カシエルは間違いなく愛されていた。
レリエルの残酷な見解が続く。
「伯爵が好きな嫌がらせよ。格下の者が幸せそうにしているが許せないのよ彼。あなたは前の主人の大切な宝物だったから取り上げてきただけ。ここに連れて来た時点で、彼からしてみたらあなたはもう役目を終えているわ。」
顔には出さないが、女主人を悲しませる為の道具に使われたことに憤る彼。
レリエルの見解は多分当たっている、性欲のはけ口の道具の方がまだましだった、本当に下らない所に来てしまったと彼は思った。
怒りを溜息に混ぜて散らした。
女主人に可愛いと褒められた仕草をつくって明るく彼女に言った。
「今度の夜伽には俺のことも混ぜてよ。何人かで行ってるから一人くらい増えても大丈夫でしょ。」
「いいけど、行ってどうするの?」
彼の明るい様子に不思議そうな顔をする彼女。
カシエルが唇に指を置き少し遠くを見て考えをまとめた。
これから自分がしたいことを彼女に言う。
「このままでは悔しいから、伯爵には俺の事を好きになってもらう。」
彼の前向きな回答に若干驚く彼女。少しあきれ気味。
「自信家ね。」
小さく笑って、人好きのする笑顔を彼女に向けた。
とても穏やかにゆっくりと話す。
「俺は愛されることが得意なんだ。愛したくなるように仕向けることもね。」
小賢しいことを言いながら、人のよさそうな優しい微笑みをたたえる彼。
その様子に彼女が恐ろしさを感じる。
琥珀色の瞳が彼女を見つめ、彼女の耳元に近づき、小さく囁いた。
「君にも使ってあげようか、俺の力…。」
からかいとも本気ともつかない彼の態度に苛ついたレリエルからビンタが飛んだ。
頬を押さえながら柔和に明るく笑うカシエル。
その日から夜伽によく呼ばれる上位5名を観察が始まった。
伯爵にとって一体何が魅力的に映っているのか。
そして、自分が彼に与えることが出来る魅力とは何かを。
入念に伯爵の籠絡をシュミレートする彼。
それを実践出来る機会は思いの外、早く訪れた。
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