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第24話 『カシエルの後悔』⑤ 転機

「クリスマスを前にあなた様を迎入れることが出来て大変光栄に存じます。」 クリスマスまでにはまだ遠い初冬の時期。 カシエルの運命を変える少年が現れた。 若干地味な容姿だが従順で健気、いつも優しい笑顔を向けて来る少女。 カシエルの思い描いていた自分が提供するはずだった少女像とは若干違うが、伯爵には新鮮に思えたようで夜伽呼ばれる回数も多くなり気づくと序列は1位になっていた。 上位には入りたいとは思っていた彼だけど、1位ともなるとほぼ毎回、伯爵の相手をしているといってもいい。 彼の言う所の「下らない。」行為に付き合わざるを得ない毎日。 従順を装っているが、彼の心の内は悔しさと憎しみで満ちているはずと通常考えられるが、意外にそうではなかった。 結構早い時点で自分に折り合いをつけて、自身のが演じている従順な少女に騙されている伯爵を見て楽しんでいた。 屈辱の初夜にあった悲壮感など、もうどこにもない。 優しい笑顔の裏で「下らない。」と周りを蔑んでいたが、今ではここに来てよかったとすら思っていた。 なぜなら彼は恋をしていたからだ。 相手は10人はいる愛妾の中での唯一の女の子、2歳年上のイブニングエメラルド・レリエル。 10人ほどいる少女達。彼女以外は女装した少年。 少女の様に見える少年と少年ぽい女の子が伯爵の好み。 少女と少年の狭間にいるようなミステリアスな容姿の彼女。 顎元で切り揃えられた艶やかな黒髪、意志の強さが現れている明るい緑の瞳、無駄な肉のない細い肢体。 残酷で冷徹、凛々しく高潔な雰囲気が彼女にはある。 女らしくない高圧的な上からの物言い、でも困っている時は真摯に向き合ってくれて手助けしてくれる。 長い間女主人に仕えていたカシエル。 レリエルに仕えたくなるような主人像を夢想したのかもしれない。 最年長者として他の少女達の世話をする彼女に就き従い、一緒に世話をするようになった。 たまに出て来る、いたずら心。からかうとすぐにキレる彼女。 彼女とする他愛無いやりとりの全てが愛おしく幸せに過ごしていた。 光の加減で金色に輝く琥珀色の彼の瞳は、いつも優しく彼女の姿を追っていた。 仲間同士の恋愛及び性交は禁止されていて、恋心を明かすこともなく過ぎていく日々。 若干の転機が訪れる。 伯爵が秘密裏に開催している愛妾達の譲渡会。 伯爵が他の貴族が囲っている愛妾に強い執着を持ち始めた。 その愛妾は、深い碧色の瞳、濃い金の髪、陶磁器のような白い肌を持つ少年。 髭を蓄えた美丈夫で優しそうな貴族の持ち物だった。 彼との譲渡の交換物として譲渡会の都度、王都郊外の屋敷へ同行させられる。 自分にしても彼女にしても選ばれたら別れることになる。行きたくないと思っていても行かざるを得ない。 他人の持ち物を欲しがるのは伯爵の悪い癖。それを大切にしていればしてるほど、取り上げたくなる。 自分より格下の者が幸せであることなど許されない。 しかし、今回の相手は格下ではあるが同じ王都の貴族。 伯爵に対して何の義理も諂う理由ないようで譲渡を頑なに拒んだ。 全く面倒なことをする男だと溜息をつくカシエル。 情けなく譲渡を懇願する彼の後ろから迎入れられたらミカエルと名付けられる少年を観察する彼。 美しいけど仕草が子供っぽく、主人に若干反抗的な態度を見せている。 その姿を楽しんでいる優しそうな髭の主人。 気づいていないかもしれないけど彼は主人に愛されているがよく分かった。 第一寵姫として序列されている彼だが、伯爵から愛されているとは感じていない。 演じきった少女の外側だけを好まれているだけの彼。 伯爵に内面まで愛されたいとは全く思わないが、碧色の瞳の少年と髭の主人の関係をカシエルは羨ましく思った。 何度も繰り返された下らない茶番劇の末、碧色の瞳の少年は伯爵の元に迎い入れられることになった。 クリスマスまでにはまだ遠い初冬の時期。 突然迎い入れられた碧色の瞳の少年は何の説明も受けることなく美しく飾り立てられて礼拝堂へ連れていかれた。 祭壇の豪奢な椅子に座らせられる彼。その背後にはレリエルとカシエルが立ち伯爵が好きな茶番劇が始まる。 膝まづいて芝居がかった口上が始まる。 「クリスマスを前にあなた様を迎入れることが出来て大変光栄に存じます。」 何事かときょとんする碧色の瞳の少年の横顔を見てカシエルの心が痛む。 これから起こるであろうおぞましい行為をこの愛されていた彼が耐えられるか。 隣に並び立つレリエルが彼に小さく指示を与えている。 受け入れたくなくとも受け入れるしかない。 彼にそれが出来るのだろうか。 碧色の瞳の少年がどこまで自分の状況を理解しているか分からないが、彼女が手助けしている以上、仲間として助けてやろうとカシエルは思った。

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