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第25話 『カシエルの後悔』⑥ 思い人

「イブニングエメラルド・レリエルはいかかでしょうか。」 真っ先に悪魔に捧げられようとしたのは俺の思い人だった。 カシエルの前に現れたブルーサファイア・ミカエルと名付けられた少年は美しかったが不器用で若干頑固だった。 夜伽はいつまで経っても泣くし嫌がってるし綺麗じゃなかったら解雇されてもしょうがない状態。 しかし、伯爵の寵愛はミカエルに向いた。 強硬な手段を使って連れて来たミカエル。 見かけの美しさが目に留まっての迎い入れなので、態度の悪さがあまり気にならないよう。 当然カシエルの序列は下がった。 過剰に執着されて正直、伯爵がうざかった彼、ミカエルには悪いが願ったり叶ったりの状況。 夜伽が終わる都度、羞恥と悔しさで涙目になってる彼を不憫に思うカシエル。 不器用な彼を見て溜息を付きながら思った。 俺みたいに早く折り合い付けて慣れるしかないんだけどね。 自分から話すことが無いミカエル。 話しかけないと一日中黙っている彼をレリエルが心配する。 レリエルが心配するから、自分も心配しないといけないカシエル。 とりとめの無い会話を彼に投げかける。 カシエルにとっては縮まらなくてもいい距離だけど話すことで縮まっていく心の距離。 少し時間はかかったけど、二人は仲良くなれた。 基本むっつりしているミカエル。 でも、からかうと不機嫌になる所がレリエルに似ていて可愛いなとカシエルは思った。 淡々と過ぎて行く日々だが、近々カシエルにとって重大な日が来るのを嬉しくも寂しくも思っていた。 彼の思い人のレリエルの誕生日が近づいていた。 ここの愛妾の決まり事、女の子は14才になったら伯爵の愛妾を解雇になり屋敷勤めの使用人として働き、男の子は声変わりが始まったら解雇になり、同じく屋敷勤めの使用人か私兵になる。 同じ屋敷にはいるが、愛妾と使用人の必要以外の会話は許されていない。 もう少しでレリエルの姿を見ることも話すことも叶わなくなる事を寂しく思うカシエル。 ただ、誕生日が来ることによって彼女は嫌がっている伯爵の相手から解放されて新生活を踏み出せる。 カシエル自体も声変わりさえ始まれば同じく使用人になれる。 少しの間の辛抱と彼は自分に言い聞かせた。 寂しさの中にある希望、そんな彼の希望を打ち砕く事件が起きる。 伯爵が悪魔を召喚し、その捧げ物として愛妾達が呼ばれた。 悪魔の品定めで伯爵が真っ先勧めたのがレリエルだった。 「イブニングエメラルド・レリエルはいかかでしょうか。」 もう少しで誕生日を迎え、新しい生活を心待ちにしていた彼女。 その彼女を真っ先に捧げようとする伯爵の非情さに涙が止まらないレリエル。 憤ったカシエルが後先考えずに彼女を抱きかかえた。 動揺している為、愛妾が勝手な行動をしていることを気づかない伯爵。 幸い彼女に興味を持たなかった悪魔は別の子を選ぼうと視線を外した。 ほっとするカシエル、不謹慎だが自身に身を預けて泣く彼女を可愛らしく思った。 結果、悪魔に捧げられることになったのはミカエルだった。 彼の目に以前、伯爵に連れてこられたアッシュブロンドの少女とミカエルの姿が被る。 彼女に思った思いがミカエルにも同じく思われた。 美しいが為、見つけられてしまうとは。 せっかく綺麗なのに、なんという災難。 仲良くなり始めた仲間との突然の別れ、悲しむ所だが今は自身の腕の中にいる彼女が助かって良かったという気持ちの方が大きかった。 後数日やり過ごせば彼女は愛妾から解放される、後数日彼女を守れば…。 そんな彼の思いを壊す出来事が、この後発生することになるとはカシエルは微塵も考えていなかった。

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