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第28話 『カシエルの後悔』[終] 決断 ♥
「一人で死ぬよりは寂しくはないだろう。」
長い後悔の末、俺は嫌がられても彼女のそばに居たいと思った。
朝の光を浴びながら窓枠に腰掛けるカシエル。
その瞳は窓の向こう本邸の方向を見つめている。
暫くして、もふもふした長い赤毛を揺らしながらサンダルフォンが近づいてきて隣に並んだ。
カシエルの琥珀色の瞳がサンダルフォンを映す。
彼の得意な人好きのする笑顔向け呟いた。
「何が正解だったんだろうね。」
「…さあ、僕には分からないよ。何もしなかったし、君の思いも知らなかったし。」
「もう、死んじゃったのかな?彼女は。」
視線がレリエルが連行された本邸へ向く。
勝手に出歩いてはいけない決まり、生死を確認することも出来ない。
もう十分泣いたはずなのにカシエルの目から涙が流れた。
シルバーの瞳が大きく開き、サンダルフォンが子犬のように駆け出した。
「僕が、聞いてきてあげるよ。待ってて。」
カシエルが「どうやって?」と問いかける間もなく彼は扉の外へ出て行ってしまった。
サンダルフォンが向かった先は本邸と西の端の別邸を繋ぐ道を警護をしている近衛兵の所。
いつも2人は常駐している。
木陰から、どちらにしようか選んだ。少し見えた横顔が優しそうな方に小石を投げた。
2つくらい投げた所で近衛兵が後ろを振り向いた。
「しっ」と唇に指を置き近衛兵を手招きするサンダルフォン。
若い近衛兵の目に入ったのは白いドレスを着たもふもふした長い赤毛の少女。服装から西の端の別邸に住む伯爵の愛妾と気づく。勝手に出歩いてはいないはずなのに、何故ここにいるのだろう、自分を呼んでいるようなので、もう一人の近衛兵に少し離れると告げて少女の所へ行った。
間近で見た少女は、やや鋭さを感じるシルバーの瞳で鮮やかな色した赤毛、子犬のような仕草で腰に抱き着いて来た。
子犬が懐いている風だけどその体、顔が若い近衛兵の下腹部に激しく当たる。遊んで欲しくてじゃれているか、何か困っているのか、別の意図があるのか、少女の肩を掴み腰をかがめて目線を合わせた。
少女を怖がらせないようにと優しく聞いた。
「どうしたの?何故ここにいるの?」
シルバーの瞳が獣のように光り、目線を合わせて来た若い近衛兵の頭に掴んで唇を合わせて来た。
最近二十歳にになったばかりの近衛兵は女性経験もなく童貞、突然現れた自分より遥か年下の少女からキスで思考が止まる。頭を掴まれたまま自分が果実の様に吸い尽くされて行く感覚に気が遠くなった時点で「座って」と口の中で言われる。
まだ、雪も解け切っていない林の中、座った両足からは冷たく湿った感触が伝わってくる。
目の前には白いドレスから覗く少女の細い脚、自分の置かれた状況が判断できないままの彼の顎が持ち上げられる。
見上げるとシルバーの瞳を輝かせ赤く上気した少女の顔、「名前は」と聞かれ「ロザリオ」と答えた。
少女の肉を喰らう獣のようなシルバーの瞳から目が離せない、誘導されるまま雪が残る枯れた草むらに押し倒されて下半身を暴かれる近衛兵。他者に触られたことが無い陰茎に年下の少女が赤い舌を這わせて来る。年下の少女から与えられるインモラルな背徳感、初めて感じる陰茎を纏う温かい粘膜の感触、少女の喉奥まで差し込まれ肉厚な舌が巻き付いた感覚に堪えることが出来なくなり、そのまま精を吐き出した。
乱れる呼吸と快感に震える体、冷静になって来る思考を他所に少女の赤い舌は陰茎を離れない。
「あは、また大きくなった。ねぇ、ロザリオ、僕も気持ちよくなりたい…、お願いはその後に聞いてもらうね。」
発情しきった顔を晒し、興奮で暑くなった服のチャックを後ろで降ろして肩と胸を露わにした。
白いスカートの中で精にまみれた陰茎が2本粘着質な音を立てて擦り合わされている。
「気持ちいい…ロザリオ…気持ちいいね…。」さっき出会ったばかりのなのに恋人のように聞いてくる。「もうヌルヌルになったから挿れるね、すぐイかないでよロザリオ…。」白いスカートに阻まれて繋がっている所は見えない。
昼過ぎの林の中、発情した少女が長い赤毛を揺らし抽挿を始めた。突然現れた淫らな獣に抵抗することなく犯されている自分に違和感を感じるが、自身の腹の上で淫らに蕩けた顔を晒す少女が愛しくも思えた。
顔を触ろうと伸ばした手が少女に掴まれ、少女の小さな顔に押し当てられた。
大きな手にスリスリと頬を当て濡れた唇から愛おし気な声。
「僕を撫でてくれるの、優しいね、ロザリオ。」
その健気とも言える様子に強烈に恋に落ちた自分を感じた近衛兵。
誰とも知らない少女に、こんなに強引で、こんなに短時間で、ありえない…、そんな思考の中、ズルりと粘膜の奥深くまで到着した感触に耐え切れなくなり果ててしまった。
快楽で思考が纏まらない彼の耳に「ロザリオ!!僕はまだイってないんだけど。」不満の声が聞こえた。
数時間後、サンダルフォンがカシエルの元へ帰って来た。
手には屋敷内の建物の位置が分かる紙。
不審がるカシエルにサンダルフォンがさらっと言う。
「ここの近衛兵、僕の事を気に入ってるっていうか、気に入らせた。」
自慢気な顔に深く聞いてあげた方が良いのか悩むカシエル。
その様子を気にも留めないでサンダルフォンが「ここだよ」と指さした、そこは地下牢がある場所。
本邸の中心部に近く、愛妾がうろついてはいけない場所。
「ついでに終わった後、牢へ行ってもらった。今は、生きてるって。でも…。」
「でも…。」の後に地下牢へ送られた者の末路を聞きカシエルの悲しみが深くなった。
男は死ぬギリギリまで拷問、女は凌辱の末に拷問、その後、生きたまま地下牢の奥にある通路へ遺棄される。
既に左目と背中に深い傷を負っている彼女。その上、凌辱も受けているのは間違いない。気高い彼女からしてみたら死ぬより辛い事。
生きているなら、助け出したいと考えるが手立てが見つからないカシエルだった。
何も出来ないまま、数日が経ちいよいよ彼女の生存率が低くなった頃、容態が安定してきたミカエルが西の端の別邸へ移されてきた。
意識は戻っていないが、呼吸も脈も安定している、出血も止まり後は目を覚ますのを待つだけ。寝たきりの彼の世話を愛妾達が交代ですることになった。
別邸の一番広くて豪華な寝室を与えられる彼。その片足首には外れない足輪、そこから長い金の鎖が伸びている。
レリエルの情報を探って来てくれたサンダルフォンと親しくするようになったカシエル。
普段は他人に見せない自分の思いを彼に見せるようなった。
二人で目を覚まさないミカエルの世話をしている時にされた会話が、寝たふりをしていたミカエルと姿を隠していた悪魔の耳に入った。
悪魔がミカエルの気を引くために、レリエルの救出を請け負った。もちろん対価を支払うことを条件にしている。
同日の夜、悪魔が面倒極まりない顔をしながら抜け道を歩いている時、カシエルもまた西の端の別邸を抜け出し、抜け道に繋がっているであろう屋敷の北東部にある物置小屋へ向かっていた。
サンダルフォンが懇意にしている近衛兵が地下牢から聞こえる彼女の叫び声が小さくなって来たと聞いたカシエル。
本邸中心部にある地下牢から伸びているはずの抜け道を夜、屋敷内の建物の位置が分かる紙を手掛かりにして探ってみた。
ここ百年は政局が安定している王都、有事に使用される抜け道は、今は死を待つ罪人が投げ込まれる場所となっている。
抜け道の出口であろう場所を特定し、各所にいる私兵に見つからぬよう走り抜ける。
「止められなかった…。俺は止めれたはずなのに…。」
カシエルのレリエルに対する後悔はずっと続いている。
生きていたとしても拷問と凌辱の末に遺棄されている彼女との再会。
無様な姿を見せたくないと彼女は喜ばないに決まっている。
分かっていても、一人で死ぬよりは寂しくはないだろう。
カシエルの後悔の果ての決断はレリエルと一緒に死ぬことだった。
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