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第30話 からかい
「あ・い・し・て・る…かしら、あは。」
俺はからかわられるのが嫌い。
でも、定期的にからかう人が出現する。
妙に温かくて少しいい匂い。
額に柔らかい感触…。
違和感を感じて目を開けた。
目に入ったのは開けた白いシャツからのぞく男の胸…。
独りで寝ていたのに俺は今、額にキスされながら男の腕枕で寝ている。
昨日より少し体が動いたけど押しのけるほど動かない。
声も「う」とか「あ」しか出ない。
離れようと動いていたらギュっと抱き寄せられてしまった。
「寒かったし、疲れたから…もう少し寝させて…。」
…この声、昨日の悪魔。勝手に人のベットに入るな。
残った右目がシーツの方だからよく見えないけど、明るいから朝になってる気がする。
サンダルフォンとかカシエルがそろそろ来る時刻じゃないのかな?
この格好を見られるのはまずい。すごく抱き合ってるし。
起きて欲しくて出せる声を出していたら「構って欲しいの?」とか気色の悪い事を言ってきた。
眠そうな琥珀色の目が俺を見たので声は出ないけど口は動いたから動かした。
「ひ」「と」「が」「く」「る」
「あ・い・し・て・る…かしら、あは。」
絶対ワザと間違って言っている…俺は真剣なのに!
俺が動けない事をいいことにすごい触って来た。
「あれから、一週間…かしら?麻薬の効果にしても動けなくなってるのが長いわね。」
左目の包帯を解かれて、傷口を見ると「こっちの目開けて」と言われ瞼を開けてみたが何も見えなかった。
腫れていて開けずらかったが、瞼を開けると見えていたはずのものが見えない。
ナイフで抉ろうとしたのだから当然だが、俺は左目の視力を無くしていた。
若干悲しいと思ったけど、それよりも悪魔が至近距離で顔を近づけて来るのが嫌。
「血は止まっているけど、こうも動けないとなると中で化膿しているのかしら?体の神経に異常起こしているのかも…。もうっ!思い切りよく刺しすぎよアンタ!」
悪魔が傷口を触りながら怒り出した。触られると痛い。
理不尽に事を言うな、この悪魔…瞳が欲しいと言ったのは誰?
悪魔が面倒くさそうな溜息をついた。
長い指で傷口をなぞりながら呟く。
「アタシは万能型の悪魔だけど、万能ゆえに特化はしていないのよね。」
彼の琥珀色の瞳が金色に変わり獣の虹彩が現れた。
整った口元から牙を覗かせて、うれしそうに言う。
「治癒能力に特化している悪魔なら死ぬ寸前の人間も一瞬で治せるけど、アタシはそうもいかない。でも時間を掛ければ治せるわよ。治してあげるわ、困るでしょ。」
片眼が見えないのは良いとしても体が動けないのは困る。
でも、悪魔とは関わりたくない。
別にあの時死んでも良かったのだから…。
うれしそうに顔を近づけて来る悪魔に口を動かした。
「い」「ら」「な」「い」
悪魔の動きが止まり首を傾げた。
眉間にシワを寄せてブツブツ呟いた。
「今時の子って、みんなこうなのかしら?あの女の子もそうだけど死にたがりよね。素直じゃないって言うのかしら?」
少しツリ目の悪魔が何故か怒っている。
俺が動けないのをいいことに勝手に左目を舐めてきた。
瞼を指でこじ開けて眼球に長く尖った舌を這わせる。
ゾワゾワして気色悪いけど体が動かない。
見えなくなって壊れている目でも温かい粘膜の感触が伝わってきて気持ち悪くて叫びそうになった。
「やめて!!」
久々に明瞭な声が自分の口から出て驚いた。
得意げな顔をする悪魔が得意げに言う。
「ちょっとは信じた?アタシの力。悪戯してたんじゃないのよ。ふふ。」
何か悔しい俺。声が出てうれしいけど…。
複雑な顔をしている俺にまた悪魔が顔を近づけて来た所で、扉向こうからカートの車輪の音が聞こえた。
「また、今度ね。」と悪魔が金色の瞳を輝かせて微笑み、俺が動けないのをいいことに唇にキスして消えた。
ベットの上で赤くなる俺はすごく困っている。
包帯は取れてるし、夜着は乱れてるし…声だけは出るけど体は動かせない。
この状況をこれから入ってくる仲間にどう言いつくろおう…、声より体を動かせるようにして欲しいと思った。
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