32 / 86
第31話 [交錯]① 事の始まり
「ラティエル頼む、お前しかいない。」
カシエルが頭を下げる先には、ラティエルという少年。
ミカエルとよく似た色合いの容姿をしている。
金髪で青い目、ミカエルより色味はが薄い。
やだやだと首を振る。
「お前が一番ミカエルに良く似ているから、多分代りになる。」
増々首を振る彼。
サンダルフォンがもふもふした赤毛を揺らしながらやって来た。
ラティエルの腕を掴み引っ張り軽く言う。
「いいじゃん、減るもんじゃないし行こうよ。」
この二人に囲まれたら逃げられないと顔をしかめるラティエル、一言呟いた。
「俺…楽して、ここに居たいんだけど…。」
悪魔召喚以来初めての夜伽の招集が告げられた。
事の始まりは数時間前、ミカエルが意識を取り戻したとの連絡に喜んだ伯爵。
大慌てで西の端の別邸へ駆けつけた。
目を開けて言葉を話す彼を見て自分の命が繋がったと喜びもひとしお。
ほっとしたので、最近自粛していた愛妾と遊ぶかと思い立つ。
彼のベスト5のうち2人はいない。
一人は死亡(生きている)、一人はケガ人で遊べない。
普通に機嫌よく遊べるカシエルとサンダルフォンを選び、後は適当でいいと言う指示が従者に伝えられた。
伯爵に他意はないけどカシエルとサンダルフォンは深読みをする。
まずはカシエル。
レリエルを庇った俺を何故呼ぶ?
普通は呼ばない所か解雇してもいい案件。
嫌な予感しかしない。
次にサンダルフォン。
バレてないと思うけど、近衛兵と遊んでるのバレた?
ロザリオが誰かに話した?
懲罰モノのカシエルと呼ばれているのが気になる。
一緒に怒られるのかな?
顔を見合わせる二人。
夜伽に連れて行くメンバーを吟味する。
ゴロゴロ転がってあくびをしているラティエルが目に入った。
ミカエルより色味は薄いが金髪で青い目の彼。
見ようによってはミカエルっぽい。
もし怒られそうになったらミカエルの代わりとして捧げよう。
無理矢理連れていかれる捧げもののラティエル。
彼の序列は8位、最近は夜伽にほぼ呼ばれていなかった。
呼ばれても見ているだけという楽な役割。
一年くらい前に連れて来られた当時は新しい子として相手をさせられることが多かったが、その後入ったカシエルとかミカエルに伯爵の目が移り呼ばれなくなった。
当然序列は下がるが、ラティエルにとっては全く問題ない、むしろ大歓迎。
伯爵の相手をしないで、たまに着飾って会合に連れて行かれるくらいなら愛妾稼業も楽なモノ。
ギリギリ解雇にならない程度に時を過ごして屋敷勤めの使用人になろうとしていた彼。
余計な事をしてくれるカシエルとサンダルフォンが憎い。
手を引くサンダルフォンに本気で訴えた。
「俺さ、伯爵の相手するの本気で嫌なんだけど。すごく嫌!」
「今の感じ!ミカエルに似てる!今日は嫌がっちゃいなよ、喜ぶよ。」
「ミカエルの真似してるんじゃなくって、俺が嫌なの!」
本気なのか茶化して言っているのかが分からないサンダルフォンに苛つく彼。
駄々をこねるラティエルの肩を掴むカシエル。
人好きにする優しい笑顔を向けて微笑みながら言う。
「まあ、仕事だと思って乗り越えよう。お前なら出来る。」
「入って半年のお前に言われたくないけど、乗り越えられないんだわ俺。」
「ん?俺が見本みせてやろうか?先輩様に。」
「カシエルが相手しろよ。いつもノリノリじゃん。」
「職業意識が高いって言って欲しいな。」
人の好さそうな顔してるくせに腹黒いカシエルにも苛つくラティエル。
ブツブツ言っている間に本邸にある伯爵の寝室の前に付いた。
三人に緊張感が走る。
まずはカシエル。
レリエルが生きてる以上、俺も生きたい。
今日死ぬことはありませんように…。
不貞を働いてるサンダルフォン。
…ロザリオ…。
誰にも言ってないと思うけど、言ってたらお仕置きだよ。
巻き込まれ事故に合っているラティエル。
せっかく楽なポジションに居たのに。
最悪…、二人の陰に隠れて気配を消そう。
三者三様の思いが交錯する中、久々の夜伽が始まろうとしていた。
ともだちにシェアしよう!