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第32話 [交錯]② 裏目

「絶対に嫌ぁぁぁ!!」 不幸というか不運というか選択したことが裏目に出ることが多い俺。 今日は超絶に裏目っている…。 カシエルとサンダルフォンの後ろを歩いて伯爵の寝室に入るラティエル。 久々に入るこの部屋、嫌でしょうがない。 ラティエルことベニトアイト・ラティエル。 直毛のサラサラした髪質の長いプラチナブロンド、瞳は水色に近い青。 嫌過ぎて切れ長の目が笑った猫のように細まっている。 王都の商店の家に生まれた彼、店番をしていたら伯爵の目に止まってしまった。 親が大貴族の屋敷の使用人になれるなんて大出世だから頑張れと応援して送り出してくれたが、迎入れられて大後悔したラティエル。 後悔しすぎて夜中に逃げようと思ったことも何度かあった。 何が嫌かというと気持ち悪いオッサンの相手が辛すぎること。 普通に仲の良い女の子もいた彼、男は全然好きじゃない。 客商売をしていたので愛想笑いは得意だけど、笑顔が引きつるラティエル。 無理矢理連れて来たのを悪いと思っているのかカシエルとサンダルフォンが前に出て極上の笑顔で伯爵に挨拶をした。 「伯爵様、ミカエルの回復おめでとうこざいます。今宵は私達が伯爵様をおもてなし致します。」 そう言うや否や二人でササっと伯爵の脇を固めた。 伯爵の相手しなくて良さそうと喜ぶラティエル。 目立たぬように控え目に頭を下げた所で声が掛かった。 「久しぶりだな、ら…ら?…ラティエル…か?」 久しぶりでラティエルの名前がすぐに出てこない伯爵。 名前が思い出せないなら、いっそ忘れて欲しいラティエル 頭上げていなくても視線を感じ、怖くて顔を上げられない。 でも返事をしなくてはいけない、絞り出すように言う。 「…こ…この度は…み…ミカエルの回復おめでとうございます。私も伯爵様の嬉しそうなお顔が見れて嬉しく存じ上げます…。」 「お前も喜んでくれるのか?ラティエルよ。こちらに来なさい。」 「…?…はい…。」 恐る恐るそばに行くと髪を触られた。 伯爵の太い指の隙間からラティエルのプラチナブロンドがサラサラと落ちる。 何故か涙目になっている伯爵が彼の青い目を見つめ抱き着いて来た。 「ミ…ミカエルは私の為に…うっ…うっ…。」 色味が似ているラティエルを見てミカエルを思い出したようで、号泣し始めた。 最悪すぎて固まるラティエル。 想定内とはいえ、無理矢理連れて来た手前「はい、どうぞ」と捧げると後々恨まれるのでカシエルが助け船を出す。 「お優しい伯爵様…、ラティエルにミカエルの姿を見たのですね。大丈夫ですよ、ミカエルは必ず回復いたします。その優しいお気持ちに私も胸がいっぱいです。どうか今宵はそのお気持ちを私にも向けていただけませんか?」 伯爵の涙を拭きながら超絶健気美少女を演じるカシエル。 カシエルに目が行く伯爵にサンダルフォンが飛びつき怒る。 「ダメダメっ、アルブレヒトは今日、僕と遊ぶんだよ。」 二人にベットへ押し込まれる伯爵。久々の取り合いされるシチュエーションにご満悦。 呆気にとられるラティエルは思った。 さすが…!!序列上位は違うな、すごい積極的だ!! そこまでして頑張る気持ちは全然分からないけど、頑張って相手してくれ!! 俺は気配を消して時間潰すよ。 伯爵の視界に入らないように頭を下げて少しずつ後ずさりする彼。 最悪な事にその様子が伯爵に構ってもらえなくて寂しい様子に見えてしまった。 「今日はラティエルにする。こちらに来なさい。」 伯爵の言葉に固まりまくる三人。 「はい、どうぞ」と捧げてもいいけど後々恨まれるのが確実なので、とりあえず庇うカシエル。 「嫌です!伯爵様、私はもうこんなになっているのに…。」 白いスカートから自身の起立したものを見せる。 「ダメっ!僕が遊ぶのっ!!」 ギュウギュウに抱き着いて伯爵にキスするサンダルフォン。 超積極的な二人に驚くラティエルは思った。 俺の為だか、自分の趣味でやってるか分からないけど…。 伯爵!!ここまで、やる気満々な二人なんだから、この二人でいいじゃん!! 俺の事なんか忘れてくれ!! 茶色と赤毛の猫ちゃんにわちゃわちゃされているような恰好の伯爵嬉しそうに呟いた。 「お前達の気持ちは分かった…うんうん、でも今日はラティエルがいい。そんなに遊びたいなら二人で遊んでいなさい。」 伯爵の言葉に超固まりまくる三人。 まずはカシエル。 あれ?このオッサン、今なんて言った? 遊びたいなら二人で? …?サンダルフォンとヤれっていうのか? 冗談じゃないぞ! きょとんとするサンダルフォン。 …?…。 カシエルと? まあ、別にいいけど。 全てが裏目に出ているラティエル。 絶対に嫌ぁぁぁ!!! 絶対に嫌ぁぁぁ!!! 絶対に嫌ぁぁぁ!!! 三者三様の思いが交錯する中、かつてないほど熱い夜伽が始まろうとしていた。

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