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第34話 [交錯][終] カシエル×サンダルフォン
「で…、どうする?」
サンダルフォンと向かい合っているカシエルが人のよさそうな笑顔を崩さないまま嫌そうに聞いた。
「どうするって?遊ぶんでしょ?早くしよ。」
ごくごく自然に答えるサンダルフォン、そのシルバーの瞳には迷いも戸惑いも一切感じられない。
カシエルの目の前にいる一見少女に見える、もふもふした長い赤毛のシルバー瞳の子は紛れもない男。
細い肢体で清純そうに見えるけど、淫乱よりの肉食獣。
人のよさそうな顔をしながら、自分より頭の悪そうなヤツを小馬鹿にしているカシエル。
いつもの余裕ありげな態度は崩したくない、ニコニコと笑顔を保ちながら、この窮地をどう乗り越えるか考えた。
…遊ぶって、ヤるだろ?
嫌じゃないのかコイツ?
俺は仕事だから伯爵の相手はするけど、仕事以外で男とヤるのは無理。
…あれ?伯爵の指示かこれ?
じゃあコイツとヤるのが正しい…?
レリエルとも、こういう流れでヤったし、あれは嬉しかった。
彼女は元気になったかな?
…いや、ちょっと待て彼女の幸せも大事だけど今はこの目の前にいる赤毛をどうするかだ。
ヤるにしても、どっちが…?
いやいや、ヤらないで済む方法はないのか?
めずらしく思考が纏まらないカシエル、悩んでる彼を見てサンダルフォンが親切心で話しかけた。
「カシエル寝てなよ、僕が適当にヤったげるよ。」
そう言うと、ごく自然に抱き着いてきて彼の白いドレスの後ろのチャックに手をかけて脱がそうとしてきた。
カシエルより少し背の低いサンダルフォン、可愛らしくスリスリと甘えてくる。
半分まで背中が開いた時、さすがに腹が立ってきたカシエルが強めに言った。
「本気か?ヤらないぞ俺はっ!」
「あれ?嫌なんだカシエル。」
「あたり前だ、なんでお前とヤらなきゃいけないんだよ。」
「レリエルとはヤってたよね。」
「あれは、仕方なかったから…。」
「今だって同じだよ。」
正論を言われてカッとなるカシエル、スリ寄ってる体を強引に離そうとした。
カシエルの本気の拒絶に驚くサンダルフォン。
いつも余裕あり気な顔しかみせないカシエルが、困って焦った顔をしていることにキュンキュンくる。
可愛げな外見とは裏腹に嗜虐心が旺盛なサンダルフォン。
シルバーの瞳がカシエルを捕らえてうっとりと細まった。
…かわいい……僕に困ってる?
仕事だと割り切るタイプなのに…。
僕の事が嫌…?
レリエルが好きだから…?
まあ、そんな事はどうでもいいよ。
僕は今、カシエルが食べたい。
さっきまでの子犬のような様子は一変しシルバーの瞳は肉を喰らう獣の様に輝きだした。
夜伽で何度も見ている彼の嗜虐性が昂ぶっている様子と同じ事に気づいたカシエル。
身の危険を感じ本気で逃げようとするがガッチリ掴まれた二の腕が振りほどけない。
見た目とは反して彼の強い力に驚くカシエル。
足がもつれて床に腰をつく格好になった。
すぐさま両手首を十字に重ねられて抑え込まれて胸に馬乗りに乗られる。
もふもふした長い赤毛がカシエルの顔に落ちて来る。
組み伏せられて見上げた先には爛々と輝くシルバーの瞳。
「コイツ、本気!!ガチで本気!!」と感じるカシエル。
近づく唇を避けながら、目を覚まして貰おうと訴えた。
「ちょっと…!!本気で待てって言うのっ!!嫌いになるぞ!!」
「待たないよ、別にこの後の事なんか僕にはどうでもいいし、今の僕の気持ちが大切。」
「よくない!!俺がよくない!!」
「僕は良いよ、必死なカシエル…可愛い…。」
振りほどけそうで解けない押さえつけられた手首。
「嫌がる俺がコイツを煽ってるのか?」「コイツ頭おかしくなってる。」カシエルの思考が混乱する中、伯爵の相手をしているラティルから発せられた大きな喘ぎ声に驚く。
自分の事に精いっぱいで連れて来たラティエルをすっかり忘れていた。
枕に顔を埋めて官能の声を上げながら体を震わせている彼。
意外な光景にカシエルが思わず呟く。
「…あれ?アイツ、ああいうタイプだったか?」
「気持ち良かったんじゃない?いいことじゃない。」
「いいことってお前…。」
「早くやろうよ、伯爵に見られるよ。」
「ヤってるフリでいいだろう…。」
「えっ?つまんないよ、それじゃ…。」
「キスするのは、いいからさ挿れるなよ。暴れないから押さえないで。」
カシエルが解放された腕で不満気なサンダルフォンを引き寄せて唇を合わせた。
キスするついでに頭を撫でた。
初めて触ったもふもふした長い赤毛はもふもふとした感触が気持ち良かった。
やっと落ち着いて来たサンダルフォンにいつもの余裕あり気な顔をみせるカシエル。
「ほら、もう大丈夫だろ?」
「つまんない…でも美味しい…。」
赤い舌が甘く優しく浸食してくる。
獣に優しく舐められている感覚。
サンダルフォンのキス受け入れるカシエルは思った。
下手に暴れると喜んで襲ってくるタイプ。
サンダルフォンは飼いならさないと、襲われる。
襲われない為にも俺はコイツを飼いならす!
彼にレリエルにいつか会う為に生きるという目標の他に、サンダルフォンに襲われないように飼いならすという目標が加わった。
ラティエルの嬌声が増々大きくなり、おかしくなっているのが分かり過ぎて心配になるカシエルだが、とりあえず目の前にいる赤毛の獣をなんとかしなきゃいけないことを優先した。
西の端の別邸へ戻る三人。
歩くことが覚束ないラティエルを二人が支える。
催淫系媚薬のを使われた彼の口からは「最悪…。」の言葉しか出てこない。
思い出したようにラティエルが疲れた顔を上げた。
二人を睨みつけて強く言う。
「お前ら…絶対許さないからな、二度と連れてくなよ。」
「気持ちよさそうだったよ?」
「全然よくないっ!!あれは俺じゃない!!」
快楽主義のサンダルフォンは彼の言っている意味がよく分からない。
伯爵が終わるまでサンダルフォンを宥めながら時を過ごしていたカシエル。
こちらも非常に疲れている。
まだ春とは言えない寒い夜、白いドレスの少女が三人が肩を寄せ合って長い廊下を歩いている。
プンプン怒るラティエルにひたすら謝るカシエル。
お姉さんなレリエルが居なくなった今、これからどうするんだろう俺達と考える彼。
心許ない身の上の自分達、嫌なことは多いけど仲間達といる時間は楽しく過ごしたい思った。
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