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第35話 抱擁

「今日はもういい。」 少し動くようになった腕で悪魔を押しのけた。 セーレという悪魔は頻繁にやってきては、治療とか治癒とか言いながら犬とか猫みたいにペロペロと舐めてくる。 そのおかげか分からないけど、体の機能は回復しつつあるけど、くすぐったくてすごく嫌。 悪魔の力を使っている時は金色の瞳の彼。 「もういい」って言ってるのに、また顔を寄せて来た。 少しツリ目を細めて優しく言う。 「時間あるから、もう少し治そうよ、ねっ?」 始めは親切かと思ってたけど、何か違う。 俺が動けないことをいいことに、腕枕だし、すごく密着してるし、左目じゃない所も舐めて来るし、おしゃべりだし、静かになったと思ったら寝てるし…。 温かくて、ついでに俺も寝てしまうし。 「可愛い」とか、俺がげんなりする事を言いながら、またペロペロ舐めてきた。 くすぐったくて、ちょっと痛いし、ぞわぞわする。 いつもご機嫌な悪魔に聞いてみた。 「これ、いつまでやるの?」 「左目が見えるようになるまでかしら?」 「どれくらいかかるの時間。」 「回数にもよるけど1年くらいかしら?」 「……1年。」 別に治さなくてもいいのに…。 1年もこの状態が続くのかと憂鬱になった。 憂鬱で曇っている顔を悪魔が勘違いしてきた。 俺の顎を持ち上げて嬉しそうに聞いてくる。 「あら?もっと早く治してほしいの?」 返事に困る。治さなくてもいいと言ってもいいけど、悪魔のくせに親切心が旺盛で断りずらい。 俺は、この悪魔の扱い方が分からない。 絶対服従しないといけない伯爵の様に接すれば良いのか。 悪魔は人間より強いし力を持っているから服従して言う事を聞いていればよいのかな? でも、この悪魔は何故か異様に優しい。 優しい相手だと、我儘で勝手な自分が出てしまう。 甘えるのは嫌いだし、苦手。 俺に何を求めてるのかな?この悪魔は。 悪魔が俺に叶えて欲しい願いって何だろう。 返事をしない俺を突然ギュっと抱きしめてきた。 高揚した声で言う。 「この全然懐かない感じがいいわっ!!絶対好きにさせちゃうからっ!!」 悪魔に良し悪しは無いと思うけど、彼は悪い悪魔ではないような気がする。 ただ変な趣味の悪魔に捕まった感じがした。

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