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第38話 【木陰】③ 首輪

-王都郊外 シュミット伯爵別荘- ロザリオ・ブールドの今日の任務は王都郊外にあるシュミット伯爵別荘の警備だった。 荷馬車に10数人の本邸勤めの近衛兵がかき集められた。 他に戦闘用の私兵も集めると50名近くになる、厳重な警備の元で開催されるのは貴族達の秘密裏の会合。 各々の愛妾達を同伴し美しさを競う、または交換、金銭を介した譲渡が行われる。 定期的に行われている会合だがロザリオが出向いたのは初めてだった。 見目好い青年ということで別荘の内部の警備をすることになった。 支給された新しい制服に身を包み直立不動のまま、会場前の扉脇に立つロザリオ。 着飾った貴族達と黒色の鉄で出来た首輪を付けて会場入りする美しい愛妾達を幾人も見送った。 黒色の首輪を付けた者が逃げ出した場合は捕まえろとの指示が与えられている。 首輪から鎖を付けられて動物の様に連れ歩かれていた愛妾もいた、同じ人間として心が痛む彼、自身が恋をしている少女もまた同じ境遇であると思うと増々心が痛んだ。 参加貴族の会場入りが済んだ頃、主人である伯爵が豪華な衣装に身を包み扉の前に立ち、暫くて白いドレスを着た愛妾達が現れた。 当然、ロザリオと関係を持っているサンダルフォンも居る。 10人はいる伯爵の愛妾達は12歳前後の美しい少女の姿をした少年達。赤毛は一人だけなのでロザリオもすぐにサンダルフォンを見つけることが出来た。 普段着の白いドレスとは違い繊細なレースを至る所に施した豪華な白いドレス。純白なドレスにもふもふした長い赤毛がよく映えている。薄く化粧もしていて高級な人形の様に美しい、他の少女達に習ってか楚々とした佇まいで歩いていた。 いつも見せる快活で小生意気な様子など一切ない、色鮮やかな見事な赤毛の美少女だった。 やっぱり綺麗な子だと見惚れるロザリオ。可愛いと褒めたい所だが、顔を向けることも声を掛けることも叶わない。 制服の帽子も目深に被っている彼、サンダルフォンが自分がここに居ることに気が付くかなと思う。 気が付かれてもいつもの様に飛びつかれても困る。しかし、おいそれと声を掛けることも出来ない子に恋をしている自分を自覚させられた。 会場の扉向こうに入るサンダルフォンを横目で見送るだけ。 すれ違いざま、直立不動で立っている右手にほんの少しだけ何かが掠めた気がしたロザリオ。 俺だと分かって手を当てて来たのかなと嬉しくなるロザリオの目に入ったのは、サンダルフォンの細い首に回されている黒色の首輪。 ここでの黒色の首輪は貴族に飼われている証であり所有物である証、その生殺与奪は所有者にある。 関係していることが知れたら、ロザリオもサンダルフォンも只ではすまない。 誰にも言えない恋をしていると改めて気づかされたロザリオだった。 何はともあれ、いつもと違う美しいサンダルフォンを見れたロザリオが上機嫌で今日の仕事の終わりを迎える。 会合後の片づけを手伝うよう指示されている途中に上司から指示が入った。 伯爵の寝室の警備に向かえとの指示、当然断ることは出来ない、片付けもそこそこに複数人で寝室に向かった。 本邸に居る時は寝室の警備はしないが、別荘は多数の外部からの人間が入り込んでいる為、万が一のことを想定して必要らしい。 大貴族となると寝るのも命懸けかと思いながら警護に付く、室内に2人と廊下外の扉前に2人。 ロザリオに先輩の近衛兵が下卑た笑いをしながら「お前は中を警備しろ」と指示してきて、言われるがままに伯爵の寝室の内部に入った。 まず大きな天蓋付きの豪奢なベッドが目に入った。別荘なのに部屋の調度品も繊細で豪華、大貴族は本当に隅々までお金を掛けていると感心している所に会合で飲んで酔いが回った伯爵が入って来た。 酔っぱらって赤ら顔の伯爵が呂律の回らない状態で付き添う従者に指示を出した。 暫くてして3人の白いドレスを来た愛妾達が入ってきて、その中には見間違えようもない赤毛の少女が混じっている。 驚くロザリオが、もう一人の室内警備をしている近衛兵に小声で「あの子達は何をするんだ」と聞いたら、下卑た笑いを浮かべながら「夜伽だよ、見れて役得だなお前」と返された。 ロザリオの瞳が見間違いであって欲しいと赤毛の少女の顔形を確認する。 しかし、何度見てもこの部屋にいる赤毛の少女はサンダルフォンだった。

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