「扉の外の警備と変わることは出来ないだろうか。」 仕事とはいえ自分の好きな子の痴態は見たくないロザリオが、もう一人の室内警備をしている近衛兵に小声で頼んだ。 愛妾達が入室したので扉は開けることが出来ないと返された。 扉とベッドの距離は５mほどで、直視する構図ではないが声は明瞭に聞こえる。 伯爵の名前を呼び、小生意気に話す口調は聞き覚えがあり耳を塞ぎたくなる彼だが、警備の姿勢を崩すことは出来ない。 室内に入ったのは三人の愛妾達、ブラウンの巻き髪のカシエルとプラチナブロンドのラティエルともふもふした赤毛のサンダルフォン。 いつものごとくカシエルとサンダルフォンが伯爵の取り合いをする小芝居を打ち、ラティエルは選ばれないように気配を消している。 サンダルフォンがやる気を見せる為か早々に脱ぎだして黒色の首輪を一つ身につけただけの姿になった。 赤毛を持つ人は体の色素が薄い傾向がありサンダルフォンも肌の色が白い。白い肌に長いもふもふとした赤毛を纏い、細い首には隷属の証である黒色の首輪、挑発的なシルバーの瞳が合わさって美しい少年奴隷の様相になった。 伯爵の手がサンダルフォンの頬に伸びて、今宵の伽の相手が確定した。 敗者となったカシエルが一応、悲しむ顔をして引き下がり勝者のサンダルフォンが喜びのキスを伯爵にしようとした時、動きが止まった。 伯爵の肩越しに見える扉前にいる近衛兵の姿に見覚えがあり、息をのむ。 動きを止めるのは不自然だから、伯爵と抱き合いキスを交わしながら考えた。 ロザリオ…、ロザリオだよね？ 何故ここにいるの？気が付かなかった。 まあ…これが僕の仕事だから見られてもしょうがないか。 分かってくれるかな？ ロザリオは真面目だから嫌われるかも。 せっかく少し楽しかったのに…。 遊び相手に操を立てているワケではないが、普通に気まずくなり、小生意気な軽口も出て来なくなる。 今更、カシエルに替わってくれとは言えないサンダルフォン、いつもの積極的にリードする気もなくなり脱力気味。 何故か普段とは違う大人しいサンダルフォンに違和感を覚える伯爵だが、黒色の首輪をひとつ付けただけのしおらしい姿は、とても煽情的で劣情を掻き立てるには十分だった。 脱力し抵抗なき細い肢体を組み敷き、大きく広げた脚の奥に重く肥えた男が覆いかぶさる。 太い杭を埋め込まれた体はもう逃げることは叶わなく、激しい抽挿と共に揺れ肌を擦りあげる鉄の首輪の痛みがサンダルフォンを襲う。 抱かれるのは好きなのに、こんなに気持ちがのらないのは初めてと自分に覆いかぶさる男を見上げた。 薄くなった男の髪に手を伸ばし指を埋めて、これが先日触れた黒いクセっ毛なら良かったのにと思う。 気持ちは冷めているのに、体の最奥を激しく突かれているうちに体が快楽を拾い始めて口から自然に甘い声が漏れだす。 ロザリオの前で違う男に抱かれてイきたくはないが、イくのは止められない。 「アルプレヒト、キスしてよ。」と誰にも聞こえないように囁いて、止められない官能の声は男の口の中に収めた。 -数日後- 王都郊外別荘で行われた会合から戻り、いつもの日常が始まっている。 晴れた午後、足早に白いドレスの少女が林の中を走っている。 首元が開いているドレスから見える白い首には痛々しい細かい傷と黒い痣が残っている。 木陰から離れた少し所に居る近衛兵の様子を伺うサンダルフォン、足元に落ちている石を選ぶ。 大きい石にしようか、小さい石にしようかと少し考えてから、小さい石を投げた。 すぐには来ないと思い、別の小石を探していると目に入ったのは革靴、見上げると黒いクセっ毛のロザリオだった。 「早いね。」と言って、手を引き林の奥深くへ駆け出した。 誰にも見つからない林の奥まで駆け抜けて、サンダルフォンがロザリオに向き合った。 サンダルフォンが質問を始めた。 「別荘で…、別荘にいたよね？」 「いた。」 「見た？」 「…見た。」 「嫌いになった？」 「…。」 ロザリオの目に映るのは、少し怒った様子で問いかける白いドレスの赤毛の少女。 別荘で見た楚々とした様子とは違う、いつもの我儘で小生意気な姿。 こうも違うと別荘で見たのは別人かと思いたいが、白い首に残る細かい傷と黒い痣があの場所に存在していた事を物語っている。 先がない恋をしていると散々考えた数日間を思うロザリオ。 そう思いながらも投げつけられた小石を嬉しく思い手を引かれるまま向かう体。 目の前にいる赤毛の少女は怒りながらも、どこか怯えている。 自分が恋している相手が抗えないとはいえ犯されている姿を見せられても、嫌いではない。 いくら考えても別れたいとは思わなかった。 枯れた草むらに膝まづき、小さい白い手を取り見上げた。 かしずく格好なのに生意気かなと思いながらロザリオが言う。 「大好きって言って欲しい？」 サンダルフォンに「ロザリオのくせに生意気!!」と言われ飛びつかれ、後はいつも通り。 先など見えない二人を春近い木漏れ日が暖かく包んだ。