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第42話 黒猫③ 見本

「どうした?ミカエル?なにかあった?」 俺の世話をしに来たカシエルに「人に優しくする方法」を聞いてみたら、すごく驚かれた。 「お前はツンツンして冷たい所がいいんだから世間にまみれようとするな!」と説得されたけど、悪魔に少しは優しい態度をとりたいと思った。 ツンツンして冷たい所が良いって悪口? 「ところで、誰に優しくしたいの?」と聞かれ言葉に詰まった。悪魔になんて言えないから「男の人」と言ったら、カシエル以上にサンダルフォンが「どこの男?」と食いついて来た。 独りで軟禁状態なのに変な質問をしてしまった。男の悪魔が来ているなんて言えないし「やっぱり教えなくていい。」と言ってブランケットに潜り込んだ。 カシエルがブランケットに包まる俺をガシガシ揺らして大声を出す。 「そうやってすぐに会話を拒否するのはよくないぞ!男に優しくする方法俺が見本みせてやる!!」 「そうだよ、僕も得意だし教えてあげるよ。」 サンダルフォンまで教えてくれるらしいからブランケットから顔を出した。 この二人は全く嫌がりもせず伯爵の相手が出来る強者…、俺から見ると尊敬の域に達してる。 気持ちを作るコツとかあるのだろうか? 「俺からな、イエロートパーズ・カシエルの見本よく見ろよ!!」 カシエルが男らしく宣言をして、垂れ気味の瞳を閉じたと思ったら、すぐに開けた。 「男役いた方がいいな誰か呼ぶか?」 「僕でいいじゃん、カシエルの仕事モード見せてよ。」 「…サンダルフォンはダメ、お前は襲いかかってくるからな。」 「ケチ…、僕達より背の高いザフキエルでも呼ぶ?」 「いいね、俺達の中で一番男らしいヤツだよな。」 二人で相談してザフキエルを呼びに行った。そこまで真剣に教えてくれなくてもいいのだけど。 ザフキエルは確か長い黒髪で中性的な感じだったかな?性格は話したことがないからよく分からない。 暫くしてザフキエルを連れて来た二人が事の成り行きを説明した。 ザフキエルは黒々とした黒髪を後頭部で一つにまとめて垂らした髪型が凛として良く似合っていて、瞳も髪と同じ濃い黒色、肌も褐色で異国的な姿をしている。 カシエルとは頭半分ほど背が高い、説明を聞いたザフキエルが結構な大声で笑い出した。 「えっと、カシエルがオレを惚れさせるってことか?普段のお前を十二分に見てるのに惚れるワケないだろ?普通にケツ掻いたりしてるじゃん、面白過ぎだぜ!!」 腹を抱えて笑うザフキエル、女装はしてるけど元気な少年だった。バカにされてムッとしているカシエルが「絶対惚れさせるからな」と宣言してザフキエルに向き合った。 垂れ気味の瞳を閉じてから、ゆっくりと開けた琥珀色の瞳はこの上なく優し気で若干潤んでいる。小首をかしげ、ふんわりとした人好きのする優しい笑顔を向けて、ザフキエルに嘘とも本気ともつかない愛を伝える言葉を切なげに淀みなく話しだした。恥ずかしげもなく演じられるカシエルが得意な超絶健気美少女に笑い転げていたザフキエルの動きも止まる。 カシエルは口が達者、俺には絶対言えない事をスラスラと言うタイプ。嘘でも言って貰うと嬉しいのだろうか?それは少し謎。容姿的には小柄な清純派で多分俺と似た系統だけど、カシエルのブラウンの巻き髪と垂れ気味の瞳は従順で親しみやすい愛らしさがある。笑顔が優しい…話し方も、ずっと聞いていられる。 ベットに座る俺の横にいるサンダルフォンも感心している。 「あは、カシエルはホント仕事熱心だね。上っ面なら、あれくらいやれば普通の男は落ちるね。」 どこでどうやって経験を積んだのか分からないけどサンダルフォンが仕事目線で評価しているのに違和感を感じていると「そろそろ決めるかな」と呟いた。 褐色の手を取り自分の頬に当てて、ザフキエルの濃い黒色の瞳を見つめた。 健康そうな褐色の肌を持つ黒髪少女にブラウンの巻き髪があざとくも可愛らしい少女がキスをねだる構図が出来上がった。 唇が吸い寄せられるようにカシエル目前まで迫った時にザフキエルの動きが止まり、ふふっと笑い出した。 「ぶっちゃけ、お前の事なんにも知らないんだったら良かったけど知り過ぎてるからな。でも、まあよく化けているよ。別人みたいだ、すごいよお前。」 悔しそうに「ちっ!!」と舌打ちしカシエルの顔が少年に戻り「見本になったか?」と俺に聞いて来た。正直、見本にはなったけど俺には出来ない。隣にいたサンダルフォンが次は僕がやると言って飛び出していた。 「グレーダイヤモンド・サンダルフォン、頑張るよ!!」 ザフキエルに飛びついたと思うや否や早業で押し倒し、腕を頭の上に拘束した。確実にザフキエルの方が大きいのにいとも簡単に押さえつけられたザフキエルが当然の様に暴れ出す。 「てめぇ!!何すんだよいきなり!!」 「何するって、ミカエルに見本みせようとしてるんだけど。」 「どんな見本だよ、痛いっつうのっ!!」 「無理矢理押さえつけられてさ…こんな可愛い僕にヤられるなんて、良くない?」 「良くねぇ!!マジで離せよっ!!」 ザフキエルの抵抗する姿に興奮して、サンダルフォンのシルバーの瞳が獣のように光ってるし、そのままもふもふした赤毛がザフキエルの顔に落ちて覆いかぶさろうとした時カシエルが横から突き飛ばした。 「サンダルフォン、全然見本になってない。ミカエルが出来るヤツをやれよ。」 「えっ?これくらい出来るよねミカエル?」 「こんなのやるのお前だけだ、馬鹿力だすなよっ!!」 なんか三人がギャアギャアとモメ出して収拾が付かなくなった。 優しい態度…、笑うのも話すのも苦手だし、積極的に行くのも嫌い。黒猫だったら撫でて優しくは出来るけど、次に黒猫姿で現れたら優しく出来るのかな?正体が分かってしまった以上、出来そうもない。 どうしようかと考えている内に日が暮れて、悪魔が来るのを待って起きていたけど現れなかった。  

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