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第43話 黒猫④ 笑顔
「今日はラティエルも連れて来たヨ。」
もふもふした赤毛のサンダルフォンがプラチナブロンドのラティエルを引っ張って来た。
結局悪魔が来ないまま朝が来てしまった翌日、俺の世話をするついでに昨日の『男に優しくする方法』講習会がまた始まる。
参加メンバーが増えた。今日は、直毛のサラサラした髪質の長いプラチナブロンド、瞳は水色に近い青のラティエルがすごく嫌そうな顔で連れて来られている。
サンダルフォンに吠えた。
「俺は、楽してここに居たいだけで『男に優しくする方法』なんて覚えなくていい!!」
…すごい、俺と全く同意見だ。色合いも似てるしラティエルとは友達になれそうな気がする。
カシエルとサンダルフォンは一体俺達を教育してどうする気なのだろうか。
頑張って伯爵の相手でもしろと言いたいのだろうか?
キャンキャン吠えるラティエルにカシエルが強めに指示を出した。
「うるさいぞラティエル、ミカエルの横に座れ、そう並んで座れ。」
ベットに座る俺の横にラティエルが嫌々やってきた。座るや否や俺の顔をマジマジと見つめて来てカシエルにも吠えた。
「全然似てないよね?もう、やめてよミカエルの代わりに夜伽連れて行くの!!俺、本当に嫌なんだけど!!」
「ザフキエルよりは全然似ているけど。」
「そりゃあ…、色はミカエルに近いけど俺の方が愛想はある!!」
「確かに…。」
愛想は俺にはない、全く持って事実、でも面と向かって言われると腹が立つ…悪口か?ザフキエルが腹を抱えて笑ってるし、サンダルフォンも頷いている。
ラティエルが怒りながらカシエルに聞いた。
「で、何するんだよ。並ばせてさっ。」
「似てるんだから、近い距離にいる時、相手がどういう気持ちになるか体感してみなよ。」
「どういう気持ちって…なんか意味分かんねぇぞ。」
「金髪の青い目の可愛らしい子に至近距離で見つめられる…、それを体感してみよう。」
「はあ?何それ?意味なくね?」
「いいからやれ!!」と言われ、渋々向き合い見つめあう俺とラティエル。
色の濃さは違うけど金髪に青い目…、悪魔の目から見ると俺はこんな感じ?
金髪だからか光って見える気もする。悪魔だから天使っぽいのが好みなのかな?
「さあ、そのまま髪とか触って!!」と言われ触るとラティエルの髪はすごいサラサラしていた。触った感じはいいな…で、なんの練習なんだろう?
「そのまま唇を触って!!」…ツヤツヤしてる…で、なんの練習なんだろう?
「そのまま重ねてみるか!!」…重ねる…?……なんの練習…?
カシエルが言うなら意味があるのかなと言われるがままに顔を近づけようとしたら、額をすごい勢いで押さえられた。ラティエルがものすごい勢いで怒る。
「ふざけんなぁぁ!!カシエルぅぅ!!なぁーんでキスする必要があるんだよぉ!!ミカエルも真に受けるなぁっ!!遊ばれてるだけだぁ!!」
「まあ、どこでも誰とでもキス出来るようになる練習かな。」
シレっと嘘の言い訳をするカシエルにラティエルが怒りまくるし、ザフキエルが腹を抱えて笑ってるし、サンダルフォンもすごく笑っている。
…やられた、カシエルは人をからかうのが好きだった。騙されるとイラつく。
ラティエルもからかわれてイラついてカシエルに言い返した。
「じゃあ、カシエルお前がやってみろよ!!出来るのかよ!!」
「別に…キスくらい全然問題ない。」
「じゃあ、やって見せろよ。」
墓穴を掘って「ちっ!!」と舌打ちするカシエルにサンダルフォンが飛びついて「僕としようヨ」とか言い出して、「お前はホント誰でもいいのかっ!!」と焦りながら拒否るカシエルが妙に面白かった。
腹を抱えて笑っていたザフキエルが後ろで一つにまとめた黒髪を揺らしながら俺に近づいて来た。
彼の濃く黒い瞳が俺を映し嬉しそうに言う。
「今、笑ってたな。珍しいというか初めてみたぞ。笑うのは良い事だから、もっと笑え。」
驚かれるくらい珍しいことかと思っているとザフキエルの褐色の指が俺の頬に伸び口角を横に広げ無理矢理に笑顔にさせようとしてきた。
そんな無理に笑わせないでと嫌がってると他の皆も集まって来た。
「笑って」と「笑顔作って」と言われるけど、面白くもないのに笑うなんて出来なくて困惑する俺。
サンダルフォンが「面倒だからくすぐっちゃおうヨ」とか言い出すから、4人がかりでくすぐられて軽い地獄を見てしまった。
騒がしい時間が過ぎて独りになった俺は、金の鎖を引きずりながら扉窓を開けてバルコニーに出て黒猫を探した。
結構探したり待ったりしてみたけど黒猫は現れず、その晩も悪魔は来なかった。
二日と開けず来ていた悪魔は何処に行ってしまったのだろう。
サディストの元雇用主をいたぶっているのか、私生活が忙しいのか、俺に飽きたのか、どれだろう。
飽きられるのは、いつものことなので慣れているけど少し寂しいと思った。
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