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第44話 黒猫⑤ 魔法陣

今日も暇なのか、俺を気遣ってなのかは分からないけど皆が集まっている。 『男に優しくする方法』講習会の結果、しゃべれないんなら抱き着いておけ、という結果になった。 出来そうだけど…それでいいのかな? 今度、悪魔が来た時は抱き着いてみるかと思ったけど、大体は会った瞬間に抱き着かれているような? 抱き着かれて、抱き着き返したら深い意味が発生するような気がする。 そこまでじゃなくって、軽い感じで優しくする方法ってないのかな? バンバン!! バルコニーに繋がる扉窓から音がして目を向けたら黒猫が硝子に体当たりしていた。 サンダルフォンが扉を開けて上げると一目散に俺の所に駆け寄ってきて膝の上に座り、金色の瞳を向けて「にゃあーお」と挨拶をする。 皆が「可愛いね」「慣れてるね」とか言って来るけど、正体を知ってるだけに表情がぎこちなくなる。 俺の手に顔を摺り寄せて来るから、顎を触ってあげていたら口から何かを吐き出した。 なんだろうと見たら、何か赤黒い物。 肉片…?爪…? 第一関節から切り離された…指!! 妙に誇らしげな顔をする黒猫と固まる俺。 「どうしたの?」と仲間が覗き込もうとするから慌てて指を後ろに隠した。 黒猫がペロペロと俺の顔を舐めてから、膝の上を降りてしっぽをウネウネ動かしてバルコニーに向かい居なくなった。 「ミカエルっ!!血がついてるけど!!」の声に気づいて白い夜着に目を向けると、黒猫がいた箇所は赤く血に染まっていて悪魔が来なかった理由が分かった気がした。 その夜更け、自慢気にふんぞり返った悪魔が現れた。 月明りしかない薄暗い部屋の中、悪魔の金色の瞳がキラキラと輝き、俺の居るベッドに長い足を組み座った。 優し気な顔をしているの凄まじく残忍な事を上機嫌で話し出し、途中からその時の様子を思い出したのか随分と高揚した顔になってきた。 頼んではいないのだけど…、どうしてこうなっちゃったのかな? サディストの元雇用主も驚いただろう…、天罰が当たったとも言うのかな? 仲間に見られないように枕の下に隠した元雇用主の指は、どうしたら良いのか。 持ち主の顔もあまり覚えていないのに…。 饒舌に話し終えた悪魔、悪魔の姿でいるのを忘れているかのように俺の膝に頭を載せて甘えてきた。 黒猫姿じゃないけど撫でて褒めてと言っているのかな? 緩く波打つ黒髪に手を置き聞いてみた。 「殺したの?」 「殺さなくていいと言ってたから殺しはしなかったけど、殺して欲しかった?」 「別に…もう顔も思い出せない人だから。」 「もう、探すの結構大変だったのに、もっと喜んでよ!!」 「……。」 俺の膝の上でプリプリと怒る悪魔。 頼んではいないけど、俺の気持ちを汲んでいるつもりなのかもしれない。 結構大きい体してるのに猫のフリ…山羊角なのに…。 俺なんかの機嫌とってどうするのだろう。 怖がらせないようにする為かな? 望んだことではなかったけど、何か頑張って来てくれたよう。 お礼を言う所なのか…。 「ありがとう…。」 「にゃあーん…ってね、じゃあ、そういうことで…。」 ガバッと勢いよく起き上がり悪魔が顔を近づけてくる。 『対価』の続きかと目を閉じた。 結局『男に優しくする方法』なんて、カシエルやサンダルフォンみたいには出来ない。 出来ないから今日は山羊角を掴みあげたりしないで、大人しくしていようかな。 目を閉じたままキスをしていたら、呪文らしきものを唱える男の声が耳に入り、目をあけると悪魔の周りに円形の魔法陣が輝いている。 薄暗い部屋が魔法陣が放つ強烈な光で明るくなり、半裸の悪魔の体も輝き出した。 召喚されようとしているセーレが大声で叫ぶ。 「えっ?ちょっとっ待ってよぉっ!!今はっ、いやぁぁあっ!!」 呆然とする俺の目の前で悪魔は絶叫を上げながら、魔法陣に吸い込まれていった。 せっかく今日は暴れないつもりだったのに…。 半裸で召喚されるなんて、召喚者も驚くだろうな…。 「ふふっ」という声が聞こえて自分が笑っていることに気が付いた。 笑うなんて暫く縁がなかったことで、自然に笑えた自分に驚いた。 悪魔が吸い込まれて行った辺りで待ってみたけど、その晩は現れることはなく「また今度ね」と呟いて眠りに就いた。

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