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第48話 [ラティエルの受難]① ラティエル×ザフキエル×サリエル
「最悪…。」
あまりの事態に猫が笑った顔みたいに目を細めて口走ってしまった。
俺、ベニトアイト・ラティエルは通常モードが最悪で、必然的に口癖も「最悪…。」が多いけど今日の最悪は半端ない。
夜伽のトップメンバーになってしまった。伯爵の相手すること自体が最悪なんだけど、ウチのエースが2匹いつも頑張ってるから俺が直接相手をすることはあまりない。
そのエースが2匹が最悪なことに風邪を引いて寝込んでいる。
まず1匹目のエース、序列2位のもふもふ赤毛の淫乱サンダルフォンが風邪を引いて寝込んでしまった。
なんか最近コソコソどこかに抜け出しているようなサンダルフォン、雨に濡れたのかびしょ濡れになって帰って来た日があった。そして普通に風邪を引いた。
…迷惑過ぎる、どこで何しているんだヤツはっ!!サンダルフォンほど超ノリノリで伯爵の相手するヤツはいないのにっ!!
もう一匹のエース、序列1位の垂れ目の腹黒カシエルがサンダルフォンを看病して感染してしまった。
…まあ、親切というか義務感で看病してたんだと思うけど、カシエルほどサクサク仕事終わらせるヤツはいないのにっ!!
それで現在、序列3位に急上昇している俺にお鉢が回ってきてしまった。
伯爵の夜伽には最低3人で行かなくてはいけない。
カシエルとサンダルフォンが行けない今、序列3位の俺は絶対で後の2人は適当に選んでくれと指示された。
西の端の別邸、伯爵に囲われている俺達がいる待機所にいる残ったメンバーを見渡した。
とりあえず立候補してもらおうと思い皆に呼びかけた。
「今日、夜伽に行きたい人、手を上げてくれ!!」
…当然誰も反応しない、ピクリとも動かないし俺から目を反らそうとしている。
あああ、エース達っ戻ってくれよ…、絶対エースのミカエルはなんか別次元枠になってるから連れて行けないし、レリエル姉さんは死んじゃったし…今日は俺を含めて非積極的なカス6人しかいないんだよな。
頭を抱える俺の肩がポンと叩かれて、見るとザフキエルが良い笑顔をしている。
「しょうがねぇな、俺が行ってやるぜ!!」と自身に親指を向けて男らしく言ってきた。
有難い…ザフキエル、いいヤツだよなお前。仲間の内で一番男らしいよ…。
ザフキエルは黒々とした黒髪を後頭部で一つにまとめて垂らした髪型が凛として良く似合っていて、瞳も髪と同じ濃い黒色、肌も褐色で異国的な姿、背も高い、可愛いというか格好いい。
性格もさっぱりしてて、良く笑うし、まあ少しガサツだけどさ…。
…ああ、有難いけど、多分伯爵の好みじゃないんだよなぁザフキエルはっ!!
ザフキエルと一緒に行くと絶対俺が選ばれちゃう!!
ミカエルに似ているとか言われる俺は直毛のサラサラした髪質の長いプラチナブロンド、瞳は水色に近い青。色は似てるけどこの俺の切れ長の目はミカエルと違うだろ?嫌な事があると猫が笑った顔みたいに細くなるしさっ!!
伯爵の好みは儚い感じのゆるふわ系か、静かな美人系…、俺より選ばれる可能性が高そうなヤツに「頼む!!一緒に行ってくれ!!」と頼んでみたが「やだやだ」と首を横に振られた。
腹が立つので「勝手に決めるからな!!」と怒っていたら「僕が行こうか」と控えめな声が聞こえてきた。
喜んで声の方を見ると小動物のように怯えている感じのサリエル。
サリエルは小柄で髪は長く波打つグレーに近いアッシュブロンド、神秘的な紫色の瞳は大人しく若干頼りなさげで儚い雰囲気に満ち溢れている。
大人しく気弱な性格、自分から何かをすることはない、皆の後を少し遅れてついて行く彼。
サリエルは俺が困っているから立候補してくれたのかもしれない…、彼は儚い感じのゆるふわ系なのかな?
ザフキエルは絶対選ばれないとして、俺とサリエルのどちらかを選ぶとして、伯爵はサリエルを選んでくれるだろうか。サリエルは積極さが足りない気もする。
ああ、でも文句は言ってられない。
男らしいザフキエルと怯える小動物的なサリエル、愛想笑いだけは得意な俺ラティエルが今日の夜伽に上がることになった。
最悪で嫌でしょうがない夜が始まる。
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