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第54話 [ラティエルの受難]⑦ レモングラス

「それ、薔薇の香料しか入ってないんだけどね…。」 幸薄そうな客人の言葉に混乱したまま、ベッドに腰掛けるドエロいメイド服を着た俺。 …どういうこと?媚薬なんだよね? 2回は飲んで、2回とも俺じゃない俺になってるはず。 幸薄そうな客人は、もう一つのベッドに俺を連れてきても長い脚を組んだまま、遠くの伯爵達がいるベッドを静かに眺めているだけ。 俺はというと媚薬を飲んだと言うのにムラムラしているワケでもなく、隣に座る幸薄そうな客人が輝いてみえるワケでもない。 客人との私語は禁止されているから、余計な事は聞けないし…、何もしてこないし…。 何考えているんだろうとライド―ル子爵殿とかいう幸薄そうな人の横顔を見ていたら、突然、俺の方に顔を向けたので驚いた。 静かな面持ちでボソボソと俺に話しかけてきた。 「どう?気分は…。」 「なんともないです。」 「そうだね、薔薇の香料に催淫作用がある訳がない…。」 「でも…。」 「でも…?」 「前に飲んだ時は効いた気がします…、いや、効いたから俺は…私は…おかしくなったというか、エロくなったというか…。そうでないと、困るんで、媚薬じゃないと困ります。」 「媚薬じゃないと困る…なぜ…。」 「…お……私は…男なので…何もしないで…男の人に興奮はしない…はず…。」 「そうなんだ…、見た目は女の子みたいに可愛いけどね…。」 そうボソボソ呟くとまた短いスカートをピラっと捲り上げて「やっぱり男の子だね…」と同じくボソボソと呟いた。 「よく効く薬は毒に近い危ういもの…、私の作る媚薬は特に何も入ってはいない…、それでも良く効くと言われる…、性的興奮など気持ちの持ちようってことだね…。」 「…!!!何もって…!!…ウソだ!!」 「…皆には…特に伯爵様には内緒だよ…。」 客人が自身の唇に人差し指を重ね、口留めの仕草をした。 俺は俺じゃない変貌ぶりが媚薬の効果でないコトを知らされて混乱に陥っている。 確かにっ!!確かに効いたしっっ!!!飲んだら世界が変わった!! 媚薬じゃないとしたら、あれは一体なんだったの? 頭を抱える俺の顎が持ち上げられて、幸薄そうな客人の面長な顔が近づいてきた。 何?と思う間もなく唇が重ねられて、思わず開いた口の中に口移しで何かを入れられてしまった。 コロコロと俺の口の中に残った物体は…。 …甘い?丸い?…飴? 片頬に飴玉を入れて膨らまして「何これ?」という顔を向けると幸薄そうな客人がふんわりした微笑みを向けながら俺に言う。 「これは本物の媚薬…、私は男の子とはしたことないけど、君なら出来そうだよ…。」 …これが本物の媚薬?信じられるかっ!! 絶対嘘!!と首を横に振る俺の耳元に幸薄そうな客人の手がゆっくりと優美な様子で伸びてくる。 色薄いグレイの長髪、面長でよく見ると優しい顔をしている、俺よりずっとずっと大人の男…。 唇を指でなぞられて、体がビクンと震えた…? この人はレモングラスの良い匂いがする、俺を触る長い指が少しひんやりしていて気持ち良い。 控え目に重ねられた唇がもっと欲しくなった。 本物か偽物なのか、本当なのか嘘なのか分からないけど、コイツになら抱かれてもいいかなと頭がおかしくなり始めた。

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