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第58話 〔長い夜の秘め事〕② 秘密の告白

「カシエル、寝てていいのに…。」 異変を感じて目を開けると襲われかかっていた。 部屋は既に薄暗くなっていて、カーテンから漏れる光は冷たい月光、仰向けで寝ている俺の体の上には温かい体温を伝える体が被さっていて重くはないけど、唇と舌が体に当たる感触に驚いた。 あらためて異変を感じる先に目をやると、夜着の前ボタンは全部外されて胸部が開けているし、サンダルフォンのもふもふした赤毛が俺の胸辺りで蠢いている。 寝てていいのに…じゃないしっ!! 慌てて赤毛を掴みあげて、大きな声を出した。 「サンダルフォンっ!!何しているっ!!」 「可愛いから、ちょっと襲いたいな…と。」 「本気でやめろよッ!仕事以外はしないって言ってるだろ!」 「じゃあ、仕事以外でする時はどんな時なの?」 「好きな人とだっ!!」 「じゃあ、僕の事好きになればいいじゃん?好きになっていいし、好きにさせてあげるよ?」 「ダメダメダメっ!!絶対ないからっ!!この仕事してるけど俺は女の子が好き!!ここを卒業したら普通の男に戻って女の子と結婚するんだからっ!!」 「へぇ…、そうなんだ…、色々考えていたんだね。」 俺の腹の上に跨りシルバーの瞳をキョトンとさせるサンダルフォン、納得してくれたのかなと見つめていると、俺の頬をスリスリと撫で始めた。 「可愛い…、そんな可愛い事を考えて仕事してたんだねぇ…。でもさ、ホントに嫌だったら顔に出るよね?カシエルは嫌そうに見えないんだけど…、エッチなこと好きなんでしょ?だったら僕としようよ。」 「嫌そうに見えない顔を作っているだけ!嫌に決まっている!!」 「可愛い声出して鳴いたりするのも、突かれて体を震わせたりしているのも全部が嘘なの?」 「…それは、ただの反応、伯爵が喜ぶ反応を見せているだけ、ていうか俺の腹から降りろ!」 俺の怒りが通じたのかサンダルフォンが「つまんないの」と一言呟いて腹から降りた。 暖かくしてよく眠ったせいか、熱もだいぶ下がっていて体の自由が利く様になっている、体を起こして開けた胸元のボタンを閉めていると、まだ俺のベッドに座っているサンダルフォンの横顔が少し寂し気で気になった。 俺からして見れば全く嫌がりもせずに伯爵の相手をするサンダルフォンの方が不思議、俺が迎入れられた時には居たし、俺より年下ぽい見た目なのに男慣れしてるし、そもそも年齢も分からないし。 仲間の過去の事は、相手が語らない限り聞かないことにしている。 ミカエルは髭の男爵の愛妾、ラティエルは青果店の息子、ザフキエルは鷹匠の息子、アリエルは神に仕えていたとか言っていたな…、俺は田舎貴族の女主人に仕えていた。 サンダルフォンは?明るくよく話す割には自分の過去は話さない。 カーテンから零れる月光を浴びて静かに佇んでいるのは、俺より少し背の低い華奢な赤毛の少年。 もふもふとした長い赤毛と色素の薄い白い肌、シルバーの瞳は優しかったり挑発的だったりと様相を変化させる。 清純な年若い少女の様な容姿、明るく快活、でも男を知っている。 何をどうしたら今のサンダルフォンが出来上がるのか…。 俺のベッドに座っていたサンダルフォンが「つまらないね」とまた一言呟いてベッドから降りた。 「つまらないね」と言われても俺がサンダルフォンの暇つぶしの相手をする必要は全然ないから無視をしていたら「カシエルの事じゃないよ。この場所がつまらないんだよ。」と聞こえてきた。 この場所がつまらないのは俺も同感。伯爵の為だけに生きている籠の鳥だし、機嫌を損ねれば命も危うくなる危険な所。 「カシエル聞いてよ」という声が耳に入り、顔を向けると月明りを浴びて自分のベッドに腰掛ける彼。 人差し指を唇の前に置き口留めの仕草を作って言葉を発した。 「秘密だけど、僕はたくさん愛して貰わないと大人に成れない体なんだ。」 …嘘だ。 こいつ絶対に嘘をついている、嘘ついてまでして俺を襲いたいのかな? どう回避するかを考えたけど、まだ若干頭がよく回らない。 しかし寝るだけ寝たので眠くはない、退屈しのぎにサンダルフォンの嘘話に耳を傾けることにした。

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