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第59話 〔長い夜の秘め事〕③ レッド・リリィ
XX年前 王都イルハン 歓楽街
高級娼館アンデルセンの一室
「もおっ!いやだってぇぇっ!!」
朝から続けて5人の男の相手をしていて、いい加減に解放して欲しい僕は自分に覆いかぶさる男を押しのけようとしていた。
現在の名前はグレーダイヤモンド・サンダルフォンだけど、この時の名前はレッド・リリィだった様な気がする。
赤毛とシルバーの瞳の組み合わせで『紅の百合』という意味らしいけど、赤い百合なんて見たことはない。
親を亡くして身を寄せた親戚に「ウチは、これ以上は子供はいらない」と言われて、簡単に娼館に売り飛ばされてしまった。
女街というのか、人買いの男に手を引かれて連れていかれた先は王都最大の高級娼館アンデルセン。
店が開く前なので豪奢な作りの玄関から入ることになった。
初めて入った煌びやかな空間に驚く僕、足元に広がる黒色の大理石の床には惜しげもなく貴石が埋め込まれ天空の星座の形を正確に表している。
吹き抜けの天井からは幾つもの水晶で作られたサンキャッチャーが垂れ下がり、捕らえた光が美しく輝き、現実世界から離れた場所に来たと錯覚させる。
入って正面にある花台の大きな花瓶には盛大に生花が飾られ、辺りを包み込むような芳香を放ち、訪れる客達の官能の期待を煽っていた。
美しい空間にいるのに撚れたシャツと摩れたズボンという小汚い格好で恥ずかしくなった。
人買いの男の後ろに隠れていると恰幅の良い高そうな服を着た男が現れた。
隠れている僕の顔を見ようとして体を傾け、男にしては甲高い声を出した。
「可愛い赤毛だね、肌も白い。よーく洗って整えれば綺麗な子になるよ。良い子を連れてきてくれたね。ありがとう。」
そう言うと人買いの男に謝礼を渡し、残された僕に向き合って頭を撫でる。
「可愛い、可愛い、皆に愛される子になろうね。」
髭に油を塗って整えてある身なりの良いこのオッサンが、ここの経営者だった。
小汚い格好をしているのに撫でてくれるなんて、良い人かもしれないとこの時は思ったけど、後々考えると大間違いで一代で王都最大の高級娼館を作った人が良い人なワケが無い。
表面は優しく穏やかに見えるけど非情で冷酷な人だった。
客には優しいがキャストには厳しい、言う事を聞かないキャストには問答無用で罰を与え、時には死ぬ者もいた。
非情で冷酷だけどキャストに人気があった、彼に認められるのは光栄な事、存在を認められている事、彼に心酔している者も多かった。
審美眼に長けている経営者のオッサン、集められたキャストは男女問わず美しいか可愛らしく、醜い欲望を叶える為だけの存在なのに気品があった。
彼が雇っている娼婦・男娼の数は王都一で、華やかな伝説を作ったキャストもいるらしい、そしてキャストは皆いつかは自分が伝説を作ると考えている。
どんな客の要望にも応える方針の経営者は様々なキャストを用意していて、個性を持つことも勧められていた。
それはさておき、いきなり欲望渦巻く場所投げ込まれた僕は普通に戸惑った。
他に行く場所も無いし、頼る人はいない、僕を「良い子」と言ってくれる経営者のオッサンに従うしかない。
男娼としては体も育っていないので娼館に売り飛ばされたけど僕はキャストではなく、下働きでもさせられるのかと思っていたのだけど経営者は「君みたいな子を好む客もいるんですよ」とか平然と言い放ち、大した説明もなく客の相手をさせられることになる。
「もおっ!いやだってぇぇっ!!」
ここは夢を売る場所、客へは絶対服従なのに堪えられなくって大声を出した。
錯乱気味な僕は複数の従業員に抱えられて『調整士』と言われる人の所へ連れて行かれることになった。
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