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第60話 〔長い夜の秘め事〕④ 調整士

「アルドロス、どこまでいじるの?この子?」 『調整士』という男が軽薄な口調で経営者のオッサンに問いかけた。 『調整士』と言われる人の所へ連れて行かれた僕は、椅子に縄で括り付けられた。 あまり広くない部屋に怪しげな薬品が入った硝子容器やら、お医者さんが使うような金属の道具がたくさんある。 どこまでいじるの? 不穏な問いかけに暴れたことを後悔始めた僕は、怖くなり涙が零れ始め謝った。 「ごめ…ごめんなさい…、もうあばれたりはしません…ゆるして下さい…。」 「あら、泣いちゃった。でも、今が辛いから暴れたんでしょ?君は。辛くならないようにしてあげるだけだよ。」 「つらい…、いやだけど、がまんする…。」 「辛い・嫌・我慢は体にも良くないし、お客さんにも分かっちゃうんだよね。キャストもお客さんも幸せにするのが、ボクの『調整士』というお仕事なのさ。」 涙溢れる僕の瞳に映る『調整士』と言う人は年若いブラウンのクセっ毛の男、白衣を着て小柄だけど賢そう、縁の無い丸眼鏡の奥にある茶色い目は柔和な微笑みをたたえて居る。 彼の賢く優し気な容姿に少し安心するも、僕の後ろに立っているアルドロスと呼び捨てにされた経営者のオッサンが怖い。 せっかく僕を「良い子」と撫でてくれたのに、もう撫でてくれないかもしれない。 経営者のオッサンが靴音を立てて僕の座っている前に来て、怒られると思って「ヒぃっ!!」と悲鳴を上げて身をすくめた。 オッサン大きな手が僕の頭を撫でて優しい声が聞こえてきた。 「レッド・リリィは良い子。可愛い、可愛い良い子。皆に愛される子になりたいよね。」 僕が「うん」と言わなければ、どうなるのだろう? 怖くて「うん」という言葉しか言うことが出来なかった。 形だけでも僕の同意を取った『調整士』と経営者のオッサンが相談をし始めた。 「アルドロス、店に出すのは、もう少し待った方が良かったんじゃないの?2年は待った方がいいとボクは思うけどな。」 「年若い子を好む客も多いから…、彼の綺麗な赤毛に心惹かれる客もいるし、出来ることなら調整を掛けて働いてもらいたいのだが…。」 「はいはい、アルドロスは顧客第一主義だからね。じゃ、体と心どちらをいじるの?」 「体と心どちらをいじるの?」で二人の視線が縛られた僕に注がれた。 『調整士』が僕そばに椅子を持って来て座り、メモを取りながら質問を始める。 「辛いってどんな風に辛いの?」 「…ずっと、えっちなことだけで、たのしくない。ふつうにあそびたい。」 「そうだね遊びたいね、じゃ嫌なのは、どんなこと?」 「からだが、いたい。おとなは、ちからもつよいし、おもい。」 「そうだよね。じゃあ、どんな我慢しているの?」 「なかないこと。ちゃんと、いうことをきくようにしていること。」 「そっかー、良い子だね、君。」 僕の話を聞くだけ聞いた『調整士』がピクピクと青筋を立てて立ち上がると経営者のオッサンを強めに小突いて盛大に吠えた。 「アルドロスっ!この守銭奴がぁっ!!この子、全然ガキじゃんっ!!後2年待てよっ!!くそがっ!ボクがやめるぞ、こんなクソ店っ!ついでに潰れろっ!」 「いやいやいや、怒るなよザリタス、タダ飯を食わせるワケにもいかないんだからさ。」 「あ?飯のこと言ってんならボクが食わせるから、2年経ったら、この子を渡してやるっ!!」 「ザリタスっ!お前こそ何言ってんだ?四の五の言わずに調整しろっ!!」 『調整士』ザリタスと経営者のオッサンが口汚く罵りあった末に、なぜか僕は2年間『調整士』の助手をすることになった。

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