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第67話 〔長い夜の秘め事〕⑪ 悪魔の証明
「へぇ…、この場で私を犯すと言うのか?」
逃げられないのに悪魔崇拝の容疑を晴らす為、アルドロスは群衆に身を晒すことになった。
騎士団長バートンが顎髭を撫でながら不敵な笑みを浮かべ口を開き「証拠は十分に揃っている、まずは婦女子の誘拐の件から行こうか。」と言うと「どうぞ、どうぞ、全くもって心当たりがございません。是非、証拠とやらを見せて頂きたい。」とアルドロスも不敵な笑みを浮かべた。
「隊長!見つかりました、ディアナフローラ嬢で間違いありません。」上階から兵士の声、皆が騒めく中、兵士に手を引かれて降りてきたのは、前に錯乱状態で調整室に連れて来れていたストロベリーブロンドの小柄な女性だった。
騎士団長とアルドロスが並び立つ場所に連れて来られて兵士に問いかけられる。
「貴女はディアナフローラですね?」
「いいえ、私はコーラル・ロザーナです。」
「貴女は王都から東の街ロドリルに住んでいた商人の娘、三月前に街中で複数の男に誘拐されましたよね、目撃者も多数おります。私達は貴女を助けに来ました。貴女は本当の事を言ってもよいのです。貴女は娼婦という身分から解放されるのです。」
兵士の言葉を聞いてもストロベリーブロンドの女性はキョトンとするばかり、「私はコーラル・ロザーナです。」を繰り返すだけだった。
人相書きを見直す兵士が「左腕に目立つ痣があるはず!」の声で女性の服の袖を捲り上げると目立つ赤痣があり、人相書きと身体特徴から彼女が誘拐された人物と特定されるが、本人が誘拐された事実を認めない。
「どいうことだ?」と不思議がる兵士達にアルドロスが口を開いた。
「コーラル・ロザーナがアンデルセンで働き始めたのは1月前だ。それ以前のことは知らない。ここに来た時はだいぶ心を病んでいたが、今ではこの通りコーラル・ロザーナとして元気に働いている。」
「彼女は何故自分の名前を忘れているのだ。」
「さあ?その誘拐した男達に酷い目にでもあったのではなかろうか?自分の名前を思い出したくなくなるような酷い目にね。」
「誘拐犯の親玉はお前ではないのかっ!」
「私は店で働きたいとコーラル・ロザーナが願ったから雇ったまで、彼女は美しいからね。私を誘拐犯の親玉と言うのなら彼女を誘拐した男達を捕らえるのが先だと思うのだが、違うか?」
美女に変身しているのを忘れているのか、いつもの調子で話すアルドロスを見てザリタスが「バカ…、アルドロスが一番不自然…。」と顔を顰める。
ストロベリーブロンドの女性はザリタスの調整を受けて錯乱状態からは回復し穏やかになった、コーラル・ロザーナは娼館での名前、本当の名前もあるはずなのに全く覚えていない様子なのは何故だろう。
結局、誘拐の件は誘拐された本人が誘拐されたことを認めないし、アルドロスが誘拐を指示した証拠も無い為、罪として確定するのは難しくなった。
「どういうことだ?」と兵士に詰め寄りながらも騎士団長がアルドロスを睨みつける。
「人身売買、これは逃げられないぞ、十分すぎるほどに証拠がある。」
ぞろぞろと人買いの男達が連れて来られた、僕をここに連れて来たオジサンも混じっていた。
「お前達は金銭を介して人を売り買いしたことに間違いないな、人を売り払った先がこの店であることも。」
コクコクと頷く人買いの男達をあきれ顔で見ていたアルドロスが口を開いた。
「この者達は仕事の斡旋をしただけです。私の店で働きたい者を探して連れて来ただけ、私は手間賃をお支払いしたまでのこと。人身売買はしておりません。」
「人買いに金を払い買い取った人を働かせる事を人身売買と言うのではないのか?」
「どういう経緯であれ、ここに来たからには働いてもらいます、仕事でございますから。ただ牛馬のように希望なき労働はさせてはおりません。身心に不調を来すものがいれば精いっぱいの介抱しております。むしろ当店のキャストを気に入り連れ帰った貴族様達の方が人身売買とやらを盛んになさっておられるのではないのでしょうか?」
「王に仕える貴族を愚弄するのか?」
「いえいえ滅相もございません。戦乱もなく安定しているからこそ私達が安心して商売が出来ているのです。それは全て国王陛下と国王を支える貴族様方のご尽力の賜物、感謝しかございません。しかし、身一つしか価値を持たぬものが困窮した時、売るものは身一つのみでございます。買う方ばかりを責めるのではなく、身を売らざるを得ない立場への者へ手を差し伸べるのも国としての役割なのではないのでしょうか。」
ああ言えばこう言い論点をずらすアルドロス、最終的に人買いの男達は仕事の斡旋業者にしてしまった。
僕自身は売られて来たはずなのだけど、まあ、今は幸せだから何も問題は無い。
今となってはここがあって良かった、子供の身一つで放り出されても、どう生きて行けば良いのか分からない。
アルドロスは行く当てのない人を国に代わって引き受けているとでも言いたいのだろうか?
ただ見知らぬ人に体を差し出し快楽の道具になる仕事なんて最低だけど。
婦女子誘拐と人身売買の罪はアルドロスの口先三寸でかわされて、残るは悪魔崇拝だけになった。
悪魔崇拝は、どう証明するのだろう?
僕の横にいる不思議な力を持つザリタスはアルドロスにインキュバスと呼ばれていた。
この店に悪魔がいるとしたらザリタスの事だ、大雨の日に赤色の瞳を輝かせ僕を昏倒させた、でも、たくさんたくさん謝ってくれて介抱してくれた。
悪魔だとしても悪い悪魔とは思えない、ブラウンの髪と瞳、青年までいかぬ少年のような骨格、黒服姿で階下のアルドロスを心配そうに見つめている。
騎士団長バートンがパチンと指を鳴らし、兵士達がアルドロスを囲んだ。
「悪魔崇拝容疑に於いては体を検めさせてもらう。悪魔と契約した魔女であるなら、その印が刻まれておる、剥け!!」
「マスタァァー―ッッ!!!!」
緑色のドレスが剥かれようとする瞬間、ザリタスが舞台から大声上げ、何事かと皆の視線が集まった。
兵士に両腕を掴まれているアルドロスが「離せ、自分で脱ぐ。」と告げて拘束を解き、上階に居るザリタスに指を指し声を上げた。
「ザリタス、静かにしろ、お前はお前の仕事をしろ。私は私の仕事をするまでだ。仕事、分かっておるな!」
ザリタスとアルドロスの視線が絡み合い、暫く見つめ合ったのちに視線を離した。
美女の嫋やかな手が背に回り、後ろ手にチャックが引かれると光沢のある緑色のドレスが滑り落ち、瑞々しい健やかな肉体が現れ見た者全てが息を飲んだ。
健康な肌を包む純白のレース、コルセットビスチェが胸を盛り上げ、その下はキツく締め上げた細腰、形良い尻を這うガーターベルトが煽情を刺激する。
騎士団長へ近づき、緩く波打つ黒髪をかき上げて「望むなら、全て脱いでも良いが。」と挑発すると館内にいる全ての男達から吠えるような歓喜の声が溢れた。
「当然だ、全て脱いで貰おう、そして隅々まで調べる。後悔するほどにな、謝るなら今の内だ、悪魔崇拝を認めればこれ以上の辱めは許してやるが…。」
「認めなければどうする、隅々まで調べて悪魔の刻印とやらが見つからなかったらどうする。」
「刻印なくしても魔女とは淫蕩なものと聞く、責められて淫らな声を上げなかったら悪魔崇拝の罪から解放しようではないか。」
「へぇ…、この場で私を犯すと言うのか?」
「正当な取り調べだ、辱しめを受けたくなくば悪魔崇拝を認めろ。」
「認めたら死罪なんだろ?この店は取り上げられて、キャスト達も拷問か…、いや貴族達の性奴隷にでもさせられるのか?市民の築いた富など認めない、いつでも取り上げられる事を皆に示したいとでも言うのかな?」
「これは正当な手続きだ。」
「正当ね…、まあ良いよ。久しぶりに私が相手をしてあげる、淫らな声を上げなかったら良いのだろう?」
締め上げたコルセットビスチェの紐を解いて豊満な胸を晒し、両の腰に結んだ紐を解き下腹部を覆っていた布を優美な様子で群衆に投げ飛ばして館内を沸かせた。
馬鹿げている、マスターとしての意地をみせる為にしても馬鹿げている。
群衆の前で自身を犯させるなどアルドロスは頭がおかしい、その様子をショウのごとく楽しもうとする姿は下衆であり悪趣味。
止めさせることは出来ないものかとザリタスを見ると枯れない薔薇のお姉さん達とコソコソと話をしている。
ザリタスが手招きして僕を呼び小声で僕に言う。
「アルドロスが皆を引き付けている間にキャストと従業員を逃がすから、リリィは声を掛けるのを手伝っておくれ。」
言われた通りにキャストに秘密の逃げ道を説明していると階下で黒髪の傾国の美女のセックスショウが始まろうとしていた。
一人目の相手になる若い兵士に嫋やかに手を伸ばすアルドロス、嫌ではないのかと遠目みえたに横顔から本意を探ろうとしたら、全くと言って悲壮感など無く、むしろうっとりとした様子に驚いた。
固まっていると枯れない薔薇のお姉さん達が「全然心配しなくて良いから、アルドロスってバカだから逆境に燃えるタイプなのよね。」とサバサバと言い放ち「さっ、仕事しましょ。」と言って僕の背中をを押した。
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