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第71話 〔長い夜の秘め事〕⑮ 好きな人を忘れる方法
「…レッド・リリィとは、サンダルフォンのことか?」
俺の目の前にいる赤毛に問いかけた。
酷い風邪を引き別室に隔離された俺とサンダルフォン、襲われかかっている流れで、なぜかサンダルフォンの長い長い昔話が始まった。
彼が娼館に売られたこと、優しいインキュバスと過ごしたこと、そして別れたまま会えていないこと、そしてインキュバスの眷属になっていて年を取らないコトと最後は幻想的な話だった。
話を聞き終わり、俺、カシエルの目の前のベッドに座るサンダルフォンに問いかけた。
「…レッド・リリィとは、間違いなくサンダルフォンのことか?」
「そう!、僕のことだよ。」とサンダルフォンが、もふもふした赤毛を揺らしながら元気に答えた。
ニコニコと俺に笑顔を向けてくるけど、彼の話の中のレッド・リリィという赤毛の少年は大人しく物静かな様子だった気がする。
確実に今の彼とは性格が違う、事実を話しているのだろうか?、それとも適当に作った話か?、適当に作ったにしては設定が細かい、誰かから聞いた話なのだろうか?
最終的にインキュバスのザリタスを待つ為に血を舐めて眷属になった所で終わっている。
インキュバスの眷属になると年を取らなくなるのだろうか?
サンダルフォンと出会ってから一年くらいになる、今の『伯爵の宝石』の中ではミカエルを除くと俺が一番最後に迎い入れられている。
だから誰がいつ『伯爵の宝石』になったのかは、あまり深く知らない。
この話が本当だとしたら、サンダルフォンはいつからここにいるのだろう?問いかけてみた。
「サンダルフォンは、いつ伯爵に迎い入れられたんだ?」
「さぁ?けっこう前だから忘れちゃったよ。」
「レリエル…、レリエルは『伯爵の宝石』になって三年と言っていた、彼女より前か後かは覚えているか?」
「ふふ…、知ってどうするの?」
「興味があるだけ、お前の話が嘘か、本当かなのかが。」
「嘘でも本当でも、どっちでもいいじゃん?カシエルの目の前にいる僕は可愛いんだから。」
月明り差し込む二人だけ寝室、薄いカーテン越しに見える月は高く昇っている、静かな静かな夜、俺の目の前で微笑む小柄な赤毛の少年は人外の者なのか?
それとも今この瞬間は、熱でうなされてる俺の頭が見せている夢で現実ではないとか?
とりあえず、顔を抓ってみるとそれなりに痛いから夢ではなさそう。
インキュバスの話は「たくさん愛して貰わないと大人に成れない体」の理由付け、サンダルフォンがインキュバスの眷属になったと仮定して「愛してもらう」と大人の体に成れる根拠は何処にあるのだろう?
そもそも、俺を襲う理由としての嘘話のはず、暇だから嘘を暴いてやろうじゃないか。
「インキュバスの眷属になったら年を取らないんだよな、だったら愛してもらっても姿は変わらないだろう?年を取らないんだから。」
「僕もそう考えていたんだけど、ここに来て少し背が伸びているんだよね。」
「へぇ…、伸びた?どのくらい?」
「5センチくらいかな?顔も少し大人になって来た。」
「ふーん、普通に成長期なんだろ?俺も伸びて来てるし。」
「ふふ、疑っているね、カシエルは賢いね。疑っても良いよ、疑って当然だもん。」
「背が伸びた原因は何かあるのか?」
「あるとすれば…、ザリタスのことを忘れそうになっていることかな?」
「お前を置いて行ったインキュバスのことか。」
「そう、優しくて好きだったコトも、置いていかれて悲しかったコトも、いくら待っても迎えに来なくて憎んだコトも、どうでも良くなってきた。」
「気持ちが薄れるコトで成長するなら、別に俺を襲う必要はないだろう?」
「ふふ…、賢いねカシエルは、好きだなそういう所。」
ベッドに細い脚を組み座り顎に手を当ててシルバーの瞳を光らせるサンダルフォン、なぜか不敵な笑みを向けてきた。
話の矛盾を突かれているはずなのに余裕を感じる、不審がる俺に嬉しそうな様子で問いかける。
「好きだった人を忘れるのって、どうすれば良いか分かる?カシエル。」
好きだった人を忘れる?
俺は今もレリエルのコトは好きだけど忘れたいとは思っていない、むしろ伯爵の屋敷から抜け出せるのなら彼女を探しに行きたいくらいだ。
サンダルフォンの質問が俺には合致していないから「分からない」と首を横に振った。
幸福そうに微笑んだサンダルフォンがベッドから立ち上がり、俺に近づいて来る。
彼の手が俺の頬に伸び、青みがかったシルバーの瞳が俺を捉えて、小首を傾げて口を開いた。
「好きだった人を忘れるって、新しく好きな人を作るに決まっているじゃん?」
…まあ、俺は恋愛経験はレリエルにしかないけど、そんな気はする。
でも、なんで俺の目を見ながら言うんだ?
俺の頬を掴んだ手に力を感じる、目を閉じたサンダルフォンの顔がどんどん近づいてきた。
サンダルフォンの新しく好きな人って俺か?
こいつ年上の近衛兵と付き合っているような話してたよな?
ついでに俺も新しい恋人にしたいってことかっ?
力強く掴まれた頬、剥がそうとしても剥がれない、近づく顔を前に叫んだ!!
「ないからぁぁぁっ!!、お前が男な限り絶対ないからぁぁぁっ!!!」
結構大声で叫んだのにサンダルフォンに「慌てるカシエルは可愛い♡」とほざかれて、唇を重ねたままベッドに押し倒された。
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