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第72話 〔長い夜の秘め事〕⑯ 赤い血の脅迫

「試しに飲んでみる?僕の血を…。」 血の雫が滴る人差し指を向けられて、俺の退路はなくなった。 『伯爵の宝石』序列一位の俺ことイエロートパーズ・カシエルは貞操の危機を迎えている。 俺を手籠めにしようとしているのは同じく『伯爵の宝石』序列二位のグレーダイヤモンド・サンダルフォン、シルバーの瞳が肉を喰らう獣の様に爛々としている。 唇が重なったと同時にベッドに押し倒されて、そのまま頭の上に両手首を重ねて押さえつけられた、腹の上にはサンダルフォンがガッツリ乗っている、脚をバタつかせることは出来るけど、振り落とすことが出来ない。 酷い風邪を引き皆と離れ部屋の一室に隔離されている俺達、大声で助けを呼んだとしても誰も気づかない。 クソっ…、油断した、バカか俺はっ! 細いのに力が強いのは前々から知っていた、知っていたのにヤツの嘘なのか本当なのか分からない昔話に同情心を抱いたのが良くなかった、逃げ遅れた。 仕事で伯爵に体を差し出すのはしょうがない、でも、プライベートで仲間にヤられるのはナシっ!、しかも可愛い見た目をしているがサンダルフォンは男、絶対にナシだっ! 本気でヤろうとしているのか俺の手首を掴んでいない方の手で夜着を捲り上げて来た。 「やっ…!!、やめろと言っているっ!、言うことを聞けよ、サンダルフォン!!!」 「別に痛いコトするワケじゃないし、いいじゃん?」 「だめだっ!、お前が男だからダメっっ!!!」 「女の子だったら、いいワケ?」 「人によるっ、するんなら好きな子がいいっ!!」 「じゃあ、僕、服を脱がないからさ、女の子だと思いなよ、目瞑ってさレリエルでも思い浮かべててよ。」 「そういう問題じゃないんだよっ!!」 嫌でギャアギャア喚く俺を楽しそうに眺めるサンダルフォン、捲り上げた夜着の中には手が滑りこんで、俺の陰茎を掴み擦り上げている。 「触るなっ!!、バカっ、触るなっ!!」 「気持ちよさそうだよ?勃ってきたし♡」 「反応っ、ただの反応だっ、触るから勃つんだ!」 「じゃあ、反応を楽しめばいいじゃん?」 「…ぅ、それが嫌だって言うんだ…っ!」 「そうなんだ、カシエルは心が高いね、好きだよ、そういうトコ。」 「俺が好きなら嫌がるコトするなっ!」 「そうなんだけどね…。」 擦り上げる手が離れて、諦めたのかと思ったら俺の夜着のボタンを外して来た。 「脱がすなバカっ、やめろよっ!」 「ちがうよ、脱がすんじゃなくって夜着で腕を拘束しようと思っているだけだよ。」 「同じだぁぁっっ、拘束の方がタチが悪いぞ!」 「暴れないならしないけど?」 「暴れるに決まっているっ!」 「じゃあ、仕方ないよね?」 「仕方なくないっ、嫌だって!!」 「…あ、じゃあさ、僕の血を飲んでくれたら止めるよ。」 「サンダルフォンの血…?」 「そう、多分だけど僕の血を飲むとカシエルの成長も止まると思うんだよね、僕の血を飲んで、ずっとここで僕と一緒に『伯爵の宝石』をしていてくれるのなら止めるよ。」 「脅し…、脅しているのか?ウソ話をネタにっ!」 「ウソ話かどうかは飲んでみたら分かるよ、試しに飲んでみる?僕の血を…。」 夜着のボタンを外していたサンダルフォンの手がの口元に行き、手の甲に口が当てられたと思ったら噛みついた。 ブチッッ… 手の表面の皮膚を食いちぎった? 痛みで歪んだ白い顔に赤い血が飛び散っている、そして彼の手からも赤い血がポタポタと溢れている。 「どうぞ」という風情で血を絡めた人差し指を俺の口元へ近づける、体に落ちる温かい血の雫の感覚に思わず首を横に振った。 前々からバカだと思っていたが今日のサンダルフォンはバカを通り越して狂っている。 コイツの血を舐めれば解放されるのか? 成長が止まったとか言うインキュバスの血、それを舐めたサンダルフォンの血にも効力があるのだろうか? 話自体がウソだと思うけど今は確証が取れない、本当だとしたらサンダルフォンとずっと一緒に『伯爵の宝石』で居続けなければならない。 大人になって『伯爵の宝石』から解放されるコトだけが、ここでの唯一の救いなのに、大人になれないとレリエルを探しに行くことさえ叶わなくなる。 月明り差し込む部屋、俺に血を差し出す指の主は鮮やかな赤毛の少年、グレイの瞳は嘘など付いていない様子で真っすぐに俺を見つめている。 逃げられない、諦めるしか無い。 溜息を付いて口を開いた。 「こ…、降参、降参だ、サンダルフォン、お前とヤる方を選ぶ。」 「血、舐めないの?せっかく痛い思いをしたのに。」 「お前とヤりたくはないが、確証が持てないコトもしたくはない。」 「賢くて冷静だね、やっぱり好きだなカシエルのコト。」 「脅迫するヤツに褒められても好かれても嬉しくない、後、勘違いするなよ、お前とヤるのは勉強の一環だからな。」 「勉強…?」 「お前が、どうやって男を悦ばせてるのかを知る勉強だっ!」 「ふふ、カシエルの勉強熱心なトコも好きだな…。」 俺の腹の上で幸福そうに微笑んでいる赤毛が憎い。 最悪でしょうがないけど、サンダルフォンの勝ち、逃げられない。 習わなくてもいい「男を悦ばせる勉強」の名目のもとに彼とヤることになった。

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