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第73話 〔長い夜の秘め事〕⑰ 赤い髪とシルバーの瞳

「ちょ…、あんまり脱がすな…。」 サンダルフォンとヤるのが全然ノリ気じゃない俺はカシエル、一挙一動に注文ばかりつけている。 伯爵の愛妾達が暮らす西の端の別邸、別邸の最西にある小さな個室に俺カシエルとサンダルフォンは居る。 長い夜の果て誰にも知られてはならない秘め事が始まる。 サンダルフォンのシルバーの瞳が幸福そうに蕩けている、俺はと言うと脱力気味、男と仕事でもないのにヤるなんて嫌でしょうがない。 別段、協力しなくてもサンダルフォンが勝手にしてくれそう、好きにすればと言う面持ちで仰向けになっている。 白いふんわりとした夜着を着ている俺達、俺は長いブラウンの巻き毛でサンダルフォンは長いもふもふとした赤毛、遠目に見ると仲の良い少女達がじゃれあっている様にも見えるだろうけど、俺達はれっきとした男だ、職業的に伯爵の愛妾で男娼をしているが男が好きなワケではない、サンダルフォンは分からないが俺は女の子が好きだ。 抵抗を止めた俺の頬をサンダルフォンが愛おし気に撫でて嬉しそうに言った。 「ヤる気がなさそうな所も全然可愛いね、素のカシエルっぽくて好きだな。」 「何でも好きとか、可愛いとか言うな、ヤるんなら早くしろよ。」 「あは、素だね、男の子に戻っている。」 「仕事でも無いのに猫をかぶる必要もないだろ?」 「カシエルはいつもすごい猫をかぶってるからね♡」 嬉しくて堪らない様子で唇を近づけて来たから押し戻した。 「キスとかいいから、要らない。」 「前にアルブレヒトに二人でしなさいって言われた時はキスしたじゃん?」 「結局ヤらなかっただろう?キスくらいしないと格好が付かないからしただけだ。」 「今もしようよ、盛り上がるよ?」 「別に盛り上がりたくない。」 残念と言う顔で小首を傾げたサンダルフォンが気を取り直して夜着のボタンに手を掛けて来たから手を掴んだ。 「ちょ…、あんまり脱がすな…。」 「脱がすのもダメ?」 「別に全部脱がさなくて出来るだろう?」 「つまんないよ?」 「別に俺はつまんなくてもいい。」 「せっかく僕は、うまいのにさ、もったいないよ?」 「そうなんだ、伯爵に教えて貰った?」 「ちがうよ、最初は漁村のオッサン達かな?、その後は王都の娼館に売られてさ、嫌でも覚えるよね。」 「へぇ…。」 また、ウソ話なのに真実味のあるコトをコツコツと混ぜて来る、俺の胸元に顔を乗せて退屈そうに拗ねている、前々から聞いてみたいコトを聞いてみた。 「男の人とシて楽しかった?、サンダルフォンだけは伯爵が好きだからな。」 「どうかな?、ザリタスを待って生きる為だったからね、漁村のオッサン達に体を売ってたのはザリタスの帰りを待つ為だったし、王都の娼館に売られたのはザリタスが王都に居るかと考えたから、結局は会えていないけどね、ここに居るのは娼館で働いている所をアルブレヒトに見初められたからかな?」 「じゃあ、今が一番、暇なのか?」 「暇?、ふふ、アルブレヒトは、たまにしかシないからね。」 たまにしかシないからね? 伯爵は調子の良い時は三日と開けずに俺達を呼んでいるのだが? 俺の腹の上に身を預けている赤毛は、同い年か少し年下に見える姿なのに、いつから体を売って生きているのだろう? 話の全てがウソだとしても男に慣れるには相当な時間が掛かっているはずだ。 俺も今は飼われて暮らしている身ではあるけれど、ギリギリだがプライドを保てる状態ではある、日々を生きる為だけに流浪して来たであろうサンダルフォンは何を考えて生きて来たのだろうか? 腹の上にある赤毛に手が伸び、柔らかいもふもふとした感触のままに頭を撫でた。 頭を撫でられるのが好きと言っていたサンダルフォンが顔を上げてシルバーの瞳を嬉しそうに輝かせた。 「僕を撫でてくれるんだ?、カシエル!」 「…うん、お前は俺より大変だった気がするから。」 「ふふ、全ては過ぎたコトなんだけどね、ああ、でも、たいへんだったんだから、もっと撫でて!、僕を褒めてよ!」 「うん、サンダルフォンは大変だったな。」 「そう、僕は、たいへんだった!」 俺の同情する言葉に感激したのか勢いよく首元に飛びついてきた、避けようとして手で押した顔、頬を掠めた手が濡れている。 噓なのか本当なのかは分からない。 分からないけど涙を零すサンダルフォンを見るのは初めてで、気づいたら俺から唇を重ねていた。

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