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第78話 木綿のヴェール③ 立ち昇る煙

「何故、お前は生きている?、お前が死ねば良かったのに…」 要らない人間として僕は長らく生きて来た。 『伯爵の宝石』の仲間達からも泣き虫だ言われているけど、ドルナードと呼ばれていた頃は今よりも泣いてばかりいた、なりたい自分が遠すぎて悔しかったからだ。 白雪が舞う頃に僕は生まれたと言う、イルハン王国の北部の農家に生まれた僕は夫婦の初めて男の子で期待されていた、男手で家族を豊かにする希望を掛けられていたが小さく弱弱しい産声を聞き母は落胆したと言う。 病弱で物心付くまでに何度も死にかかったらしい、それでも僕より先に生まれた三人の姉に可愛がられて何とか生き延びて来た、ある日のこと自分と他者の違いに気が付いた。 僕は他の人と色が違う――― 黒髪と黒目、健康的な肌色を持つ家族の中で僕だけが色を忘れて来た様な姿をしていた、銀白の髪に赤味がかった紫の瞳、白い肌は陽の光当たると赤く腫れあがる、役立たずと罵られる時には〈白子〉と呼ばれ蔑まれて来た。 両親は元気で逞しい男の子を望んでいたのに陽の光をまともに浴びる事も出来ない子が生まれてしまったのは何の因果なのだろう、必死に働いても裕福にならない生活の苛立ちは僕に向けられて家の奥で静かにしている事が僕の仕事だった。 それでも三人の姉達は優しく、農作業の合間に僕の様子を見に来てくれた、道すがらに自生してい野苺を手の平いっぱいに摘んで渡してくれた、寂しくてポロポロと泣く僕の頭を撫でて励ました。 「ドルナードは今は小さいけど、ちゃんと立派な大人になれるわよ。」 外に出る事も出来ないのに?、少し大きくなってからは家族の役に立てば親に愛されると考え、陽が落ちてから薪になる小枝を集めたり水を汲みに出掛けていた、誰もいない外に一人きり、皆に休息を与えている夜空の時間は僕にとって働く時間だった。 そう過ごす日々の中で新しい家族が増える事になった、新しく迎えた命は男の子で僕とは違い黒髪と黒目、健康的な肌色を持っていた、「やっとまともな男の子が産まれた!」と両親が喜びの笑顔を赤子に向ける、心が千切れそうになるが皆と一緒に喜んだ、そうして僕に新しい仕事が与えられた。 「グランのお世話はドルナードがするのよ。」 農作業に忙しい家族に赤子の世話をするのは難しい、役に立たない僕がお世話をする事に何の異論もなかった、小さい弟は元気が良く回りの期待を一身に集めた、本当は僕に向けられる期待だったと思うと胸が苦しくもなるも「にいちゃん」と慕ってくれる姿に醜い心は押し込めた。 グランが三つになった時に流行り病が貧しい農村一帯を襲った、数多くの死人が出る中に二番目の姉と弟のグランも流行り病を患ってしまった、昔に使っていたと言う崩れかけた納屋に隔離される二人、僕が看病をする様に言われ高熱でうなされる二人の額に冷たい水で浸した布を必死にあてがうも、患ってから一週間もしない内に二人とも息を止めてしまった。 夜半に泣きながら母屋の戸を叩き二人の死を告げると、扉越しに聞こえて来たのは嗚咽混じりの母の声だった。 「何故、お前は生きている?、お前が死ねば良かったのに…」 「母さんっ!!」と残った姉達が怒声を上げているの聞こえ、ガタガタと木扉を開けようとする音が聞こえるも「お前達にも死なれたら困る、外には出さない!!」と父の声、ガタつく木扉を眺めるも開かれる気配は無く、最後に「二人の亡骸は納屋ごと燃やせ」と告げられた。 雪残る季節、満月の明りだけは幸福そうに輝いていた、崩れかけた納屋の扉を開くと苦しみから解放された二番目の姉と弟が安らかに眠っている、もう一度息をしているかを確かめてみたが体のどこも動かない、泣きながら呼吸をすれば動くはずの喉や胸をじっと眺めている内に朝になった。 僕は、要らない人間――― 姉弟を失くした悲しみよりも胸に沸き起こるのは自分への苛立ちだった、粗末にされていても役に立てば親は自分を 愛してくれると思っていた、木扉を開けて一緒に悲しんでくれると思っていたのに生きていることを疎まれた、〈白子〉に生まれたくて生まれて来た分けではない、しかし〈白子〉に生まれた事実は変わらない、僕が息をしている限りはこの体と生きていくしかない。 窓の外を見ると感染を恐れて村人は誰も家の外には出て来ない、それでも死人を焼く煙が立ち昇ってるのが見えた、目に刺さる陽の光の痛みを堪えて煙の本数を数えると十を超えている、何度も姉弟の息が戻らないかを確かめて陽が落ちたと同時に納屋に火を点けた。

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