「帰って来たのか、カルネラは？」 歩く都度に聞かれた。 イルハン王国の東部の信仰を集めるザザデルド教会は神に仕える修道士がたくさんいた、修道士見習いも含めると数百人になるのだろうか？、ゆったりとした修道服を身に纏い教会内を忙しなく歩き回っていた。 僕のここでの仕事は何なのだろう？ 聖歌隊で歌う事だけ？、歌とはすぐに歌えるものだろうか？ 大きな教会と働く修道士達の姿を見て不安感が募った、先生の優しさにすがって来たが邪魔になったどうしよう、前を歩くリオンは白シャツにズボンで修道服を着ていない、先生は修道服を着ていたから修道士なのだろうか？、夜闇に包まれて行く大きな教会を過ぎると明るい光が零れる建物があり、当然の様に入っていくリオンの後に続いた。 食べ物の良い匂いのする広い食堂らしき所に入ると僕達の姿を見た修道士達が数人駆け寄って来て「帰って来たのか、カルネラは？」と先生の所在を尋ねて来るがリオンは不機嫌そうに「知らない」と答えるだけ、馬車置き場で別れた先生はは「暫く帰れない」と言っていた、なぜ教えてあげないのだろうかと不思議思っている内に「この子は誰？」と僕の頭に被った布を剥ぎ取ろうとした修道士の手をリオンが思いっきり引っ叩き吠えた。 「ドルナードに触るなっ!!、コイツは明るい所が苦手なんだよ!!」 なぜか苛立ち喧嘩腰になるリオンに慌てて飛びついた。 「もう、夜になったから大丈夫、偉い人達の前で頭を隠していた僕が失礼なんだ。」 銀色にも白くも見える色の抜けた髪を晒して気味悪く思われるのは嫌だったが頭の布を下した、「へぇ…、珍しい髪色だな、肌も真っ白だし、教会に飾ってある大理石の天使像みたいだな」と言うと伸びて来た手で顎を引き上げられ「紫の瞳も珍しいな、少し気に入ったぜ」と値踏みする様な目を向けた。 僕の緩いくせ毛に指を絡ませ間近で顔を覗き込まれ、肩や背中にも大きな手が触れられている、気味悪がられていない様だけど何かおかしい、こんな風にギラついた目で見つめられるは初めてで怖くなった、大人の男達に囲まれて怯えている僕に盛大にブチ切れたリオンが割って入り大声を出した。 「クソがぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!、触るなって言うんだ!!、コイツはオレと一緒に歌うんだぁぁぁぁぁっ!!」 どうやったら出るのか分からないほどの高音と声量にに耳が痛くなった、僕を囲んでいた修道士達も苦しそうに耳を塞ぐ、「ここで飯を食おうと思ったけど部屋で食おう!」、そう言うと積まれていたパン掴むと僕を引きずり食堂を出た。 何だったのだろう、さっきの修道士たちは？ 気味悪がられはしなかったけど怖かった… 館内の幾つもの扉がある廊下を歩く都度に修道士達に「リオン、帰って来たのか!、カルネラは？」と先生の事を聞かれ「うるせぇ!」とリオンが乱暴に答える、年上の人達に乱暴な口をきいて怒られはしないのかと冷や冷やする僕、聞くだけじゃなくて「カルネラによろしく言ってくれな」と菓子が入った包みを手渡してくる人も居て先生の部屋に辿り着くまでにパンだけだった食べ物は両手いっぱいになった。 廊下の一番奥の部屋の扉を開けるとベッドが二つにテーブルが一つの簡素な室内に、作りかけ衣装と見られる服があちこちに置かれていた、苛立った様子で締めた窓を開けるリオン、何をそんな怒っているかは分からないけど誰も知っている人の居ないここではリオンとは仲良くしなくてはならない、会話の糸口を探し話しかけた。 「食べ物いっぱい貰っちゃったね、みんな先生の事が好きなんだね。」 「ふん、下心ってヤツだよ、お前はトロそうだから気を付けろよ!」 「下心…？」 「そう、先生は…、いや、知らなくていい、飯食おうぜ!って、ベッドどうすんだよ？、あっちは先生のベッドだしっ、お前と一緒に寝なきゃいけないのかっ？」 「僕は床の上でも大丈夫だよ、物置小屋で藁の中で寝てたし…」 「親が居るのにどういう生活してたんだよ、お前は…」 パンとお菓子をガツガツと頬張るリオン、お菓子は村に居た時は数える程しか食べていない、甘く口の中で解ける焼き菓子は何と言う名前なのだろう？、こんな物を気前よくくれるのは豊かな街だからか、先生が優しいからお礼の気持ちなのだろうか、「美味しいね」と言うと「下心の多いヤツほど美味い物を持ってくる、まあ、食べ物には罪はねぇからな、くれた名前なんか覚えちゃいねえけど!」と口にいっぱい菓子を詰め込んだ。 怒りぽくて感情豊かなリオン、僕より少しだけ背が低いからか弟に接する様な気持ちにもなるけど先輩として敬わないと怒られそうだ、先生が帰って来ないかと二人で待ったけど、その晩は先生は帰って来ずリオンと一緒に一つのベッドで眠る事になった。 「カルネラは居るか？」とドアを叩き尋ねる男の声が一晩中に何度も耳に入り「うるせぇ、クソが!」と寝言なのか怒っている分からないリオンとザザデルドでの一日を終えた。