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第3話

   空良は思った。これがバンジージャンプなら足首に命綱を結わえつけてあって、廊下に激突する寸前で、びよぉん、びよぉん。  などと現実逃避に走っている場合じゃなくて、体育の授業で習った柔道の受け身を懸命に思い出す。確か、丸まると衝撃がやわらげられて……フォークリフトの通称・ツメさながら素早く背中と膝の裏を支えにきたものがあった。その拍子に躰が逆への字になり、いちど弾んでから、すとん。  床にガツン! と叩きつけられると思いきや、すとん? 目をしばたたいたせつな、 「怪我はしていないか」  深みのある声が鼓膜を震わせた。空良は足をぶらぶらさせて、大丈夫、と答えかけた状態で固まった。  海鵬学院は偏差値が高い。その中にあって顔面偏差値のほうもずば抜けている、という怜悧な面立ちの恐らく上級生が、鼻の頭が触れ合わさるほどの近さから顔を覗き込んでくる。  この構図って、と小さな喉仏が上下した。マウス・トゥ・マウス法で蘇生術をほどこすところにそっくりだ……。  あわてて上体をひねると逆に揺すりあげられて、ハンモックの中でジタバタしているような浮遊感を味わう。パニクりつつ状況を整理してみると、あろうことか姫抱っこされている。  ざわめきが大きくなった。なかでも主君のもとへ馳せ参じたふうな数人の生徒が、口々に讃える。 「優しくて勇敢で、さすが会長!」 「会……長?」 「生徒会長を務める三年の当麻遼一(とうまりょういち)だ。転校生が来ると聞いていたが、派手なデビューを飾ったきみがそうだね」  へどもどと、うなずき返す。当麻が空中で抱きとめてくれたおかげで流血の惨事を免れた。いくら空良が細っこいとはいえ、箱売りのミネラルウォーターよりは重い。  しかも落下速度が加わると、それに比例して衝撃度が高まり、空良の下敷きになってぺちゃんこになるどころか、軽々と抱き留めるなんてすごい!  ただし当麻に()れ狎れしくするのは罷りならぬ、という不文律が存在するようだ。掟破りなまでに密着しているわけで、殺気に満ちた視線が突き刺さる。

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