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第5話

 始業式が行われる講堂へ移動するときも、教室に戻るさいも、誰も話しかけてきてくれなかった。  大和をちい兄ちゃんと呼ぶに至ったいきさつとか、趣味とか、好きなアーティストだとか。転校生が訊かれそうなことを箇条書きにして、自己紹介の練習までしておいたのが無駄になった。  心が折れそうで、だが、クラスに溶け込もうとする努力が足りないせいかもしれない。自分で自分の頬をぺちぺち叩いて気合を入れなおす。  話が前後するが、ポプラ並木で仕切られた向こう側は中等部の敷地だ。九割がたの生徒が内部進学組とあって新顔──空良に興味津々だった。  けれど、しかし! 大和が番人のごとく目を光らせている。それゆえ空良に話しかけたくても話しかけられない、これが実情だった。  時計塔の鐘が終礼を告げると、カラオケに行くべ、昼飯が先、と教室全体がガヤガヤしだした。 「おれ、アベレージは百三……もがもが」  空良は、ボウリングに行く相談をしているグループに思い切って話しかけ、なのに猿ぐつわをかませるように掌で口をふさがれた。 「おまえは電車通学に慣れてねぇだろうが。しゃあねぇ、つれて帰ってやる」  否も応もなく廊下へ引っぱられていきながら、目が合ったクラスメイトに向かって手を振った。相手もにこやかに手を振り返してくれて、ところが、そそくさと遠ざかっていく。  友好ムードを壊したのは大和で、彼が、空良の背後で首をちょん切る真似を交えて凄んでみせたのだ。  かくして転校初日は、ちょっぴり切ない結果に終わった。もっとも空良は、裏工作が行われたためなんて夢にも思わなかったが。  潮風がそよ吹くなか、南欧風の一戸建てに帰り着く。椰子(やし)の木の樹下に土蔵が建っていて、それは小沢父・要造の工房だ。  ちなみに新婚ほやほやの要造と紗枝のなれそめは、といえば。要造がふらりと立ち寄ったピアノバアで弾き語りをする紗枝に一目惚れして以来、店に通いつめて口説き落としたとか。  ただし再婚するにあたっては、子ども同士の相性が重要です。というわけで顔合わせの席が設けられたレストランに、かったるげに現れた武流と大和のおにいちゃんズは、空良がはにかんだ笑みを浮かべた瞬間、意味深な目配せを交わした。  ペット枠決定──と意見が一致したふうに。

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