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第8話
ひと晩経てば一連の出来事は空想の類いに思えて、現実味にとぼしい。平たく言えば今の今まですっかり忘れていた。
どっと記憶が甦り、キャアと叫びざましゃがんだところに、武流はノートパソコンをくるりと回す。ちょうちょ結びのリボンがペニスの先っちょにあしらわれた空良の半裸体が、ディスプレイを彩る。
すべらかな頬が桜色に染まり、おにいちゃんズはうなずき合った。
──こいつは生け贄の素質十分。
エアコンが低く唸り、カーテンが温風にそよぐ。空良の心は、つむじ風に吹きあげられた落ち葉のように揺れ惑う。
ノートパソコンとビデオカメラをつなぎ、それを机の上に置くと、武流はおごそかに命じた。
「下を全部脱いで向こうを向いてお尻を広げてごらん。ただし靴下は履いたまま」
「えっ、でもぉ……」
大和にすがりつくような眼差しを向けると、
「さっさとしろ、ひんむくぞ」
彼は無造作にハーフパンツのウエスト部分をめくり下ろす。
「ひゃん……!」
多数決で押し切られてフリチンスタイルになるなり、カットソーの裾を目いっぱい引っぱり下ろす。XLサイズのそれは武流からのプレゼントで、だぼだぼは彼の趣味だ。
袖口から指先がちょこんと覗くさまは〝カレシの部屋に泊まった翌朝感〟を醸し出して萌える……もとい、庇護欲をかき立てられて兄弟愛が深まるのだという。
ところで要造は発明家だ。本物のペニスの質感に限りなく近い素材を開発して、アダルトグッズ界の革命児と謳われている。庭の工房は、次世代型のグッズの研究所といったところだ。
「オヤジが鍵の管理が雑なおかげで、教材はよりどりみどり? 的な」
大和は古風な形の鍵と、工房からこっそり持ち出してきたブツを、じゃじゃーんと掲げてみせた。
ラベルに㊙とあるそれは、カップ麺からヒントを得たというオナホール──触手くん1号(仮)だ。
糸状のシリコンが容器の中で幾重にもとぐろを巻き、ペニスを挿入して前後に動かすと、無数の触手がまとわりついてくるような、えもいわれぬ快感を味わえる優れ物。
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