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第9話

 ただし致命的な欠点があった。触手のリアルさを追求しすぎたのが裏目に出て、触手と触手の間にこびりついた精液を拭き取るのが非常にムズいのだ。衛生上、問題があるとして……、 「父さんは断腸の思いで商品化を見送ったみたいだけど、ヒットする条件がそろっているのに、お蔵入りは惜しいよね。だからね、空良がモニターになって改良点をレポートにまとめるのも親孝行のひとつだよ?」  武流は眼鏡を外してレンズを磨いてから、問題の容器にローションをそそぐ。 「責任重大だぞ、真剣にやれよ」  大和がビデオカメラの位置を調節する。  親孝行、と空良は呟いた。おにいちゃんズと分け隔てなく接してくれるお義父さんの役に立つことができるのは、素敵だ。 「うん、がんばる!」  武流はにんまりした。イッツス・ショータイム──と。  大和は鼻で嗤った。チョロい──と。  触手くん1号(仮)には巾着状の蓋がかぶさっていて、その中央にペニスの太さに応じて伸縮自在な切れ込みが入っている。血液が逆流するのを防ぐ心臓の弁と原理は同じで、この工夫がローションがこぼれるのを食い止めてくれる。  切れ込みから中を覗いてみると、シリコンが藻のように揺らめく。そう、おいでおいでをするように。空良は幻惑された。まだ幼い形のペニスを切れ目にこじ入れて、先っぽがローションに沈んだ瞬間、 「ひゃっこい!」  ひと声叫んで飛び跳ねた。 「か、改良点その一。ローションの自動温め機能がほしいよぉ、じゃないと、おちんちんが霜焼けになっちゃうでしょ?」  おにいちゃんズは真顔で相槌を打ち、その実、頬の内側を嚙んで噴き出しそうになるのを堪えた。そして共犯者の笑みを交わす。共有のオモチャがどこまで無茶ぶりに素直に従うか、試してみる価値があるよな? 「姿勢を変えると使いやすいかもしれないね」 「言えてるわ、角度にこだわるとかな」  早速ふたりの意見を取り入れた結果が、こうだ。  中腰になったうえで上半身を少し前に倒すと、容器を股間にあてがいやすい。すなわちヒンズースクワットの親戚といった恰好で、触手くん1号(仮)を両手で持ちなおす。

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