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第16話

 当麻はらしくもなく、へどもどした。ユニークな性格とぼかしたが、小沢空良は掛け値なしの天然だ。  ただの鉄が磁気を帯びるように、このままでは独特のペースにずるずると巻き込まれて、貴重な憩いのひとときが台無しになる。ヨガマットを丸めて小脇に抱えると、片手をあげた。 「気持ちだけもらっておこう。では、また」  空良は、気品にあふれた身のこなしに見蕩れた。我に返って、ぶんぶんと手を振り返す。  このあいだのお礼を改めてきちんと言えたし、にもまして校内で大和以外の誰かとおしゃべりができたのは大収穫だ。屋上に遠征してきて得しちゃった。 〝また〟は未来へとつながる素敵な言葉だ。  当麻会長は明日のお昼休みもここで座禅を組むのかな、座禅仲間に加えてもらえないかな。そう思いながら、おにぎりを頬張る。  タラコがぷちぷち弾けるのに合わせて、爪先が自然とリズムを刻みだし、それが伴奏をつける形で突然、頭の中でドラマティックな旋律が流れはじめた。  ラララ、と口ずさんでみる。サビが印象的なこの曲は、母親曰く「乙女脳直撃」ものの映画の挿入歌じゃなかったっけ?   ラジオの周波数が突如として合ったような現象が起きる仕組みについて武流に訊いたら、博識なおお兄ちゃんは嚙みくだいて教えてくれるはず。同じ質問を大和にすれば、空耳の一言で片づけられるのがオチだろうか。  ごちそうさまと手を合わせると、急いで教室に戻らなきゃで、ところが階段の途中に学生証が裏返しの状態で落ちている。 「プライバシーの侵害、ごめんなさい!」  拾いあげて顔写真を確認すると、落とし主は当麻だ。空良は、むぅうと唇を結んだ。教室まで届けてあげたいのは山々だが、当麻が三年……何組なのか知らない。  ひらめいた。生徒会室に預けておけば、おっつけ当麻の元へ返るだろう。弁当箱をカタカタと鳴らしながら、早速そうした。  生徒会室の扉は少し開いていた。話し声が聞こえて、ノックする途中で手が止まった。  もしも密談中に乱入する形になったときは口封じのために消されるかもしれない。音を忍ばせて戸枠の隙間に額を押し当てた。  長机、ファイリングキャビネットと視線を走らせていったすえに、思いがけない光景が目に飛び込んできた。

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