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第17話

 当麻は物憂げに窓辺にたたずんでいた。と、思えばいきなり片足を頭のてっぺんまで蹴りあげた。  幾通りものポーズをとるさまは、グラビアの撮影風景のようだ。窓ガラスがちょうどレフ板の役目を果たし、肌が(つや)めいて見えるなかで、蓋がスライドする造りのコンパクトミラーを相手に滔々と語りかける。 「黄金分割に基づいて骨格をこしらえたような卵形の輪郭に、優雅なカーブを描く耳たぶ、英知をたたえた切れ長の目、鼻筋は通り、大きからず小さからずの口許へとつづく。美しい、美しすぎる。ダ・ヴィンチが生きていれば、俺をモデルにモナ=リザ以上の傑作をものにしていた……」  独り言なのに熱量がすごい。当麻は百面相をしているように、鏡に向かっていろんなバリエーションの表情を浮かべては、類い稀に麗しい、花の(かんばせ)だ、と感極まった体で呟く。  小説か何かの科白をそらんじている? ……なんとなぁく、しっくりこない。そこに答えが書かれているかのように、垣間見えるホワイトボードに瞳を凝らした折も折、当麻がタカラジェンヌばりの華麗なターンを決めた。 「会長と崇められれば崇められるほど、新陳代謝が活発になって輝きを増す。生徒総会の檀上で挨拶する、ビューティホーな俺にそそがれる熱視線、熱視線、熱視線……ああ、無敵王子と冠するにふさわしい!」  空良の頭の中は疑問符で一杯だ。右に首をかしげ、左に首をかしげたすえに、ぽんと拳を掌に打ちつけた。  生徒会長という立場は気苦労が多くて、自画自賛しまくることでコンセントレーションを高めているのだ、きっと。優雅に泳ぐ白鳥にしたって、水中では脚を動かしつづけている。同様に、当麻は相当な努力家に違いない。  ということは、声をかけずに立ち去るのが正解だ。  そろそろと後ずさりがてら、カーリングのストーンをすべらせる要領で学生証を低く投げる。窓辺へと一直線にすべっていくのを目にするなり、駆けだした。

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