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第18話

 その日の放課後、空良は教室にぽつねんと居残ってノートにペンを走らせていた。部活が終わるまで待っていろ、と大和から厳命されている。  ひとりで帰れる、帰って晩ごはんの下ごしらえをしておくと言い返すと、 「バァカ、近所に不良の巣窟みたいな学校があんの。で、海鵬の生徒は駅とかでからまれるわけ。おまえなんかカツアゲされるわ、ボコられるわ、証拠隠滅にドラム缶にコンクリ詰めで港から海にどぼんだ」    涙ぐむまで怖い話をたっぷり聞かされた。  ちなみに大和はバスケ部の次期主将候補とのこと。ちい兄ちゃんがプレイするところを見てみたい、体育館につれていってとせがんでも、 「部外者がちょろちょろすると気が散る」  との理由で、すげなく断られた。時間つぶしにサブノートを整理していたのだが、はっきり言って飽きた。 「つまんない、つまんないよぉ……」  あちらへウロウロ、こちらへウロウロする。教室の後ろの壁は上半分が補助黒板で、下半分は造りつけのロッカーだ。  その天板の上に英語検定のパンフレットなどに交じって、カラフルなプリントが載っている。〝第七十二回・夏至祭〟? へえ、と眉をあげた。  スマートフォンを操作して、学校の公式サイトを閲覧する。  夏至祭とは、芸術に造詣が深かった学院の創立者に(ちな)むとともに、中等部との親睦を図る目的で六月の第三土曜日と日曜日に開催される──そうだ。  クラス単位で劇を上演したり、合唱を披露したり、と文化的な性格が濃い行事らしい。 「……ちい兄ちゃんてば、去年はクラスの劇で女装したんだ」  画像がいくつかアップされている中に大和の艶姿(あですがた)を発見して、くふふ、と笑った。  本人に言わせると黒歴史だろうか。だが、どぎつい化粧のドラァグクイーンに扮しているあたり、案外ノリノリで舞台に立ったのかもしれない。  それはさておき、夏至祭における二年四組の()し物を決めるべく、近日中に臨時のクラス会議が開かれるはず。それまでには空良も意見を戦わせられるほど、みそっかすの状態を脱しているとうれしいのだが。

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