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第19話

 それにしても大和は遅い。吹奏楽部の演奏は()み、サッカー部の部員もグラウンドから引き揚げていく。空がオレンジ色から藍色へと移ろいゆくにつれて、心細さに瞳が潤む。  ぴしゃぴしゃと頬を叩いた。実父と死に別れて以来、鍵っ子歴は十年を数えた。留守番のスペシャリストなのだから、大和を待つくらい屁でもない。  教室前方の引き戸が開いた。いそいそと駆け寄り、彼らの胸にぱふんと飛び込む形で、金子と野口の野球部コンビにぶつかった。 「ちい兄ちゃんだと思って、ごめんなさい」  コンビは、バツが悪げに顔を見合わせた。そして、うつむきがちに空良の傍らをすり抜ける。ロッカーから通学鞄を取り出すと、バットケースとひとまとめに担ぎながら、弁解がましく話す。 「俺様なやつにロックオンされて、あいつも気の毒に」 「つか、あいつを怒らせると面倒だからって、シカトこく俺らも俺らだけどな」 「気の毒って、どういう意味?」  空良は、ナリは小さくてもメンタルは強かった。ふたりの間から、にゅうっと顔を突き出して訊いた。  すると金子と野口は、おまえが説明しろよ、いや頼む、と押しつけっこするふうに脇腹をこづき合う。 「おれが、ちい兄ちゃんにおんぶに抱っこなのがキモいとか? お願い、教えて?」  黒目がちの目がウルウルすると、雨中をさまよう捨て犬感が強まって、冷血漢でさえほだされること請け合いだ。  現に野口はあっさりと陥落して、 「小沢……大和のほうな? が束縛したがるせいで苦労してるっぽいな、がんばれ」  華奢な肩をぽんぽんと叩けば、金子が便乗する形でさらさらの髪の毛を撫でる。ほんわかしたムードが漂うのと相前後して、 「おまえ、薄暗い校舎をひとりで歩かせるんじゃねぇ、(こえ)ぇだろうが……ってのは冗談で、練習が終わったころを見計らって部室に迎えにこい、帰るぞ」    大和が教室後方の引き戸を蹴り開けた。野球部コンビはパッと飛びのき、だが手遅れだ。  その状況は大和にとって間男と遭遇したに等しく、凶悪な目つきで金子と野口を()め据え、そのうえL字に曲げた指を彼らへ向けて撃ち殺す真似をした。  返す手で空良にヘッドロックをかけて、拳でツムジをぐりぐりする。

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