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第20話

「へちゃむくれのくせして、俺をパシらせやがって」 「うきゅ、もうしません! そうだ、びっくりしたことがあって……」    空良は両手で口を押さえた。当麻が鏡に向かって自己暗示をかけていたあれは、儀式という雰囲気が漂っていた。ぺらぺらしゃべるなんて、ミステリの結末をバラすのと同じくらいの反則だ。  大和は胡散臭(うさんくさ)げに目をすがめたあとで、ニッと嗤った。 「親父たち、今夜はデートだってよ。俺らは試作品のモニターに励みますかね」  廊下へと追い立てられながら空良は肩越しに振り向いて、にこっと微笑(わら)いかけた。  天使だ、天使が降臨した、と金子と野口の頭上をハートが飛び交ったのはさておいて。  ペニスがゼリーに包まれているような、ぷるぷるのあやされ心地にこだわった触手くん2号の威力はすさまじく、アンアン啼くに羽目になった翌日の、またまた放課後。  予算審議委員会が招集された。空良は図書委員長に拝み倒されて──要するに丸投げされて──生徒会室へ赴き、ちょこんと末席に連なったその委員会は、冒頭から荒れ模様になった。 「校内の美観を保つ意味で、うちとしては前年比倍額の予算を要求する」  と、先陣を切って美化委員長がまくしたてると、 「自転車の、ながら運転の恐ろしさを周知徹底させるために外部から講師を招いてキャンペーンをやりたい。ぜひ特別予算を」  交通委員長が負けじと声を張りあげ、 「アルバム委員です。卒アル等のさらなる充実にはドローンが必要不可欠です。早急に導入のほどお願いします」  別の代表者が割って入る。今にも乱闘騒ぎが起こりかねないほど場が殺気立ち、議長の矢野が静粛に、と木槌を打ち鳴らしても、侃侃諤諤(かんかんがくがく)とやり合って収拾がつかない。  図書委員会の代表として論戦に加わらないと、しわ寄せを受けて予算を減額されるかもしれない。だが空良はたじたじとなるあまり、お地蔵さんと化していた。

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