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第21話

「諸君の言い分はもっともだが、予算は限られていて、分配するにあたっては優先順位がある。また放送委員会から音響機材にガタがきている旨の嘆願書が再三にわたって提出されている。それを踏まえて今年度の割り振りを決めたい」  当麻が威厳をたたえて軌道修正を図ったとたん、バッタの大群が飛び回っているような騒々しさがぴたりと静まった。議事進行を促す彼の視線が微妙に逸れる。  空良はつられてその行方を追い、すると、さしずめ透明な矢印で導かれたようにファイリングキャビネットへとたどり着く。  正確に言うとカレンダーを留めるのに用いた、その表面が鏡状のマグネットに。  記憶に新しいひとコマが瞼の裏で像を結んで、ピンときた。鏡は、当麻の活力源らしい。今も不満分子を黙らせるために消費したエネルギーを充電しているのだ、きっとそうだ。 「図書委員会は何か要求は」 「あります、はいっ!」  椅子をがたつかせながら立ちあがった。授業参観日の小学生みてぇ、と当てこすりを言われると頭の中が真っ白になって、委員長から言付かってきた内容を度忘れした。引っ込め、と野次が飛んだのを当麻がひと睨みで制する。  俄然、奮い立つ。空良は、エッヘン、と咳払いをしてから切り出した。 「えっと、図書を保護するフィルムが値上がりして困ってます。あと、蔵書に加えてほしいってリクエストが殺到しているラノベの購入代金とか。そういうのを賄う費用を上乗せしてもらえると、うれしいです。えっと、ご静聴ありがとうございます」    ぺこりと一礼して締めくくると、大仕事をやり遂げたようにホッとした。思わずガッツポーズをしてくすくすと笑われたが、今度の反応は好意的なものだ。  春風に吹かれると人間は自然と浮き立つ。それと同じ原理だ。  ほっこりしたおかげで例年、生徒会側が強権を発動する事態を招くほど大揉めに揉める予算委員会が、なごやかに終わった。しかし閉会後、 「小沢空良くん、きみに訊ねたいことがある。悪いが残ってくれ」  当麻が呼び止めると一部に動揺が走った。険悪な要素を含んだそれは執行委員の席から発せられたもので、副生徒会長の中島が代表して進言する。

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