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第22話

「お言葉ですが、予算編成が大筋合意の段階で特定の委員会代表と個別に会えば、便宜を図ったのではと、あらぬ誤解を招きます!」 「個人的な用事がある、お疲れさま」  当麻は莞爾(かんじ)と微笑み、それでいて出ていけよがしに顎をしゃくる。  中島をはじめ、議長の矢野も書記の原口も、会計の倉田ならびに会計補佐の伊藤も、庶務の佐々木および広報の根本も、立ち去りぎわ空良をじろりと睨んでいった。  この時点で空良は、通称・当麻遼一親衛隊のブラックリストに載った。ハッシュタグ〝いずれ制裁を加えてやる〟──だ。  寒気がした。空良は二の腕をさする一方で、あくびを嚙み殺した。夜更けまでモニターを務めた過程で、精液の飛距離を競い合うという項目があった。  ビリッケツになった空良には罰ゲームが待っていた。それは題して王さまと奴隷ごっこ。夜食をつくるよう命じられたのは序の口で、肩を揉め、足の爪を切れと、おにいちゃんズは王さまになりきって小間使いの気分を味わわせてくれた。  ふわぁ、と顎が外れそうなくらい大きく口が開いた。涙がにじんだ目許を指でぬぐい、そこで我に返った。  訊ねたいことって、なんだろう。気をつけをすると同時に、当麻がつかつかと歩み寄ってきた。  当麻は空良の正面に陣取ると、襟章をひと撫でした。(おおとり)(かたど)ったそれは生徒会長の証しであり、誇りだ。ひるがえって、この地位を脅かすものには適切な措置を講じなくては。 「昨日、落とし物を届けてくれたね。世話になった、礼を言う」 「学生証でしょ? お安い御用です」  カマをかけたはずが、あっさり引っかかって拍子抜けした。当麻は、ぽややんとした顔へ真意を探る眼差しを向けた。  昨日のことだ。自分としたことが〝心の栄養補給〟をするにあたって致命的なミスを犯した。扉を閉め切っていなかったことに気づいて肝が冷えた。  この下級生にマズい場面を目撃された恐れがある。どうやって口封じすべきか、手なずけるのが得策か。 「好奇心、猫を殺すということわざの通り、きみの身に(わざわい)が身に降りかかるかもしれない」    と、凄みを利かせてもにこにこしっぱなしとは、まさしく糠に釘。調子が狂う、と当麻は眉をひそめつつ半歩、前にずれた。  そして(ほそ)やかな肩越しに、壁に手をつく。

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