23 / 137

第23話

 空良は、きょとんとした。こめかみの両側にバーが渡されたように、いつの間にか閉じ込められている。ふたりで遊べるようにルールを変更した通りゃんせだろうか。事前の了解なしにやり始めるのはちょっぴりずるい、とも思う。  かたや当麻は、袋の(ねずみ)だ、と忍び笑いを洩らした。  俺の〝秘密〟を嗅ぎつけたと仮定して、間違っても言いふらそうだなんて了見を起こさないよう、籠絡するに限る。覆いかぶさるように腰をかがめた。  空良は壁にぴたりと張りついた。パーソナルスペースを侵されると心臓がバクバクして、なのに勝手に腕をくぐり抜けるのは許されない気がする。  吐息に前髪がそよぐ。近い、近いなんてものじゃない。圧が強まるとともに頭の中で甘美な曲が流れはじめて、オーバーヒートを起こす。  その結果、がばっと土下座した。 「ごめんなさい、ちい兄ちゃんに会長としゃべっちゃ駄目だって言われてて。約束破って役員の人たちも怒らせて、ごめんなさい!」 「謝る必要はない、少し落ち着きたまえ」  当麻は素早くハンカチを床に敷くと、その上に膝をついた。そしてハリネズミのように丸まった背中をよしよしと撫でながら、こう思う。  ラッキー、小沢空良が天然中の天然で助かった。落とし物を拾った場合は教務課に届けるか、持ち主がわかっているなら本人に直接渡すのが普通だ。  しかし、学生証はこの部屋の床をすべってくるという変則技を用いて手許に返った。気を揉むあまり悪い想像がどんどん膨らんで、昨夜は悪夢にうなされどおし。  睡眠不足は美容の大敵……なのはともかくとして、取り越し苦労に終わった。小沢空良はSNSでの拡散を含めた噂をばらまいて回るような、悪辣な真似をするタマとは思えない。  同じころ、烈風が渡り廊下を吹き抜けた。その正体は破壊神……もとい、大和だ、大和が図書室を襲撃した。  司書室でまったりとお茶を飲んでいた図書委員長を押し倒し、馬乗りになって焼きを入れる。俺とタケ兄の大切なオモチャを顎で使うたぁ、いい度胸じゃねぇか。てめぇ、殺す、マジに殺す──と。

ともだちにシェアしよう!