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第25話

 当麻が、濡れてぶよぶよになった本のページをめくる要領で指を一本ずつ引きはがしていった。 「生徒会長ともあろう者が学生証を再発行してもらうのは、みっともないにも程がある。きみのおかげで面目が保たれた、感謝する」  暗に退室を促す(げん)だ。、あくまでやむをえず下校するさまを題材にした水彩画が、素描の段階で破り捨てられたに等しい。  別にがっかりしていないもん、と空良はことさら薄っぺらい胸を張った。それでいて、ぎくしゃくとドアノブを回したところで呼び止められた。 「俺は放課後は毎日、たいがいここに来る。時たまであれば遊びにきてもかまわない」  神対応を忘れるべからず。当麻は自分にそう言い聞かせて扉を開けてあげた。保険をかけておくに越したことはない。小沢空良が〝生徒会長の秘め事〟という時限爆弾を抱えているにもかかわらず、その利用価値に気づいていない以上、監視を怠ってはならない。    といった思惑をよそに、空良はふくふく顔を振り向けた。 「甘いのと辛いの、どっちが好きですか?」 「どちらかといえば甘党だが、質問の狙いは」 「お邪魔させてもらうときはクッキーを焼いてきまぁす、バイバイです」    ぺこんとお辞儀をすると、ツーステップで教室に戻り、すると大和が鬼の形相で待ち受けていて曰く。 「マヌケ。代表委員会だか何だか知らないが、俺以外の野郎の指図を受けるな」  前夜の雪辱戦と銘打って、第二回精液飛ばしっこ選手権が開催される運びとなった。空良はまたもや最下位に沈み、フリチンでフラダンスを踊る羽目になった。

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