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第27話

 さてグラウンドに集合して、まずは準備運動だ。ふたりひと組になって背中合わせに腕を組み、ギッコンバッタンと相手の躰を持ちあげる。  身長が同じくらいの者同士で組んだほうがやりやすくて、 「おまえは、俺とペアだ」  なのに空良は例によって例のごとく大和に引きずっていかれて、二十センチ近いハンデを負う羽目になった。  現に大和は、背中に載せた空良の躰が地面と水平になる形まで、余裕たっぷりに前かがみになる。  ひきかえ空良は、ありったけの力を振りしぼっても駄目だ。大和の重みで、うつ伏せにひしゃげた。  ひと回り大きな躰の下敷きになったさまは、あたかも虎にのしかかられた仔猫の図。空良が足をばたつかせると、 「ついでに柔道の稽古をつけてやる。寝技に持ち込まれた、根性で技をかけ返してみろ」  大和は細いウエストを両膝で挟みつける。 「重いぃ、どいてぇ!」  以上のやりとりに対するクラスメイトの感想は、といえば。  あそこイチャついてるぞ、と前章にちょろっと登場した野口が言った。大っぴらにイチャついてるわ、と同じく金子が乾いた笑い声を響かせた。リバカップルならなお萌える、と出番はこの場限り、且つ腐男子の小林の発言が周囲をドンビかせたのは、さておいて。 「おーい、出席番号の順に二列になって並べ」  体育教師が号令をかけた。百メートル走の記録をとるので、日直の空良はストップウォッチ係だ。  ゴール地点にスタンバって、そこで誘惑に負けて校舎を振り返る。正しくは一階の端っこ、国立理系進学コースの教室を──だ。なぜって? 当麻が、つまり三年一組の生徒だと知ったからだ。  別に捜してないもん、と自分に言い訳することじたい嘘くさい。スタート地点を注視するどころか、(くだん)の教室の窓に瞳を凝らすありさまで、おまけに黒板へと進み出る当麻の姿が垣間見えたとたん鼓動が速まった。  当麻の存在を意識するたびに、決まって動悸がする理由が謎だ。もしかすると当麻は一種のアレルゲンで、だから躰が過敏に反応するのだろうか。  やけに頬が火照るのは陽射しが強いからじゃなくて、いわば当麻遼一アレルギーの一症状?   そそくさとグラウンドに向き直るはしから上体をひねって、様子を窺ってしまう。当麻が二年四組の授業風景に興味を示したという(しるし)のようなものがあれば、うれしい。何かサインを送ってくれると、もっとうれしい。

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