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第30話

「小沢空良くん主演の劇なんか、よくね?」 「反対、断固反対! こいつを見世物にするとか、ぜってー許さねぇ!」  大和がフロア中に響き渡るほどの大声で吼えた。民主主義に則って決を採った結果、賛成が九割を超えて、有志一同はハイタッチを交わした。 「主役、前に出てひと言抱負を」  クラス長が手招きする。空良はパチパチとまばたきしながら、人差し指を自分の顔へと向けた。大和が裏で工作したせいだとは露知らず、いつまで経っても友だちができないのは自分に嫌われる要素があるからだ、と反省すること(しき)り。  主役に選ばれるということは、みんなから受け入れられたという証拠のようで、心が弾む。大和が隣の席から、辞退しろ、と念を送ってきていたが、なかば夢心地で教壇へ急ぐ。 「抱負っていっても、びっくりしちゃって……精一杯がんばります」  エイエイオー、と小さな拳を振りあげるさまが萌えツボにはまった生徒が続出する。  空良を中心にクラスがひとつにまとまるのをよそに、大和は口をへの字にひん曲げた。  空良に疎外感を味わわせて、そのぶん俺に盲従するよう仕向けてきたのがパアだ。急ぎ武流にLINEすれば、準主役をゲットして強硬かつ雁字搦めに空良をガードしろ、との指令が下った。    話変わって翌日の昼休み。空良は、大和がバスケ部の部長から緊急招集がかかった隙をついて教室を抜け出した。  ひと晩じゅう降りつづいた雨が三時限目の途中にやんで、青葉の香りを含んだ風が渡り廊下を吹き抜ける。トートバッグを胸にかき抱き、中庭や学食へと押し寄せる人波に逆らって、西棟に駆け込んだ。 「いる、いない、いる、いない、いる」  花占いに倣い、一段ごとにそう唱えながら階段をのぼりつめる。屋上へ至る扉は関所のように思えて、いったん立ち止まった。  ネクタイは曲がっていないね、シャツの裾がスラックスからはみ出しているなんてこともないよね。髪の毛を撫でつけてから扉を開けると、光の粒子が乱舞して眩しい。

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