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第34話
ただでさえスクールカーストの頂点に君臨する人ととふたりきりというシチュエーションは、恐れ多いものがなきにしもあらずで。
猫形のクッキーがほぼ元通りになった段階で、空良は心を揺さぶられるという次元を通り越して、屋上全体が震動している気がしはじめていた。
高密着型の検温! 仲よく共同作業! 動悸、息切れ、眩暈のオンパレード! これを屋上デートの醍醐味と分類するのは乱暴かしらん?
デート!? 耳の奥でエコーがかかると、キャアと叫んで、両手で顔を覆って、マントル層まで掘り下げた穴に隠れたくなる。
指が小刻みに震えて、ようやく発掘した鈴の形をした破片をつまみそこねる。
かたや当麻は自分自身の酔狂さかげんに呆れていた。水鏡を堪能する前に水たまりはあらかた蒸発してしまい、被害甚大だ。
だいたい、このふわふわとした下級生は一度ならず二度までも貴重な休息タイムを邪魔してくれて疫病神か、と言いたい。
だが、監視対象には親切にしておいて損はない、という打算が働く。にもまして貢ぎ物をこしらえてきた、いじらしさに報いてあげたい。
駒を動かす棋士 のような指づかいで〝目〟のパーツを所定の位置にはめた。尊敬の眼差しを向けられるとぞくぞくして、いかん、下半身に怪しい兆候が現れる。
咳払いひとつ、視線を流すと、小沢空良は職人芸を目の当たりにしたような顔つきで身を乗り出してくる。憎めない子だ、と思う。そう、びっくり箱みたいで見ていて飽きない。独特のノリが癖になりそうだ──。
「できたぁ! 先輩のおかげで猫ちゃんクッキー完全復活です」
「どんな種類のパズルでも思考力が鍛えられる利点があり、攻略すると爽快だな」
「殊勲者を讃えなくちゃです」
空良はことさら重々しげに言うとハイタッチを求めていき、だがSという軌跡をたどりながら手を下ろした。はしゃぎすぎです、反省しなさい、と自分を叱りつける。
そして、いわば台紙に使った弁当箱の蓋を持ちあげて小首をかしげた。ベタベタとさわりまくったクッキーなんて食べてもらうわけにはいかないし、かといって奇蹟のコラボを捨てるのは忍びないし、これ、どうしよう?
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