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第35話

 半永久的に保存できる方法を調べよう。そう決めた瞬間、蓋がかっさらわれた。  空良がまごついている間に、当麻は蓋を上手に傾けてぱくりといく。微妙に顔をしかめて嚙みくだくと、独創的なフレーズを用いて感想を伝えるグルメリポーターさながら、眉間に人差し指を添えてひと呼吸おく。  陽光が燦燦(さんさん)と降りそそぎ、後光が射して見えるのも相まって、空良は菩薩が降臨したという錯覚を起こした。  当麻が内心、これぞ神対応だ、と悦に入っているとは夢にも思わずに。  折りしもカモメの群れが、学校の上空で旋回した。その光景は視覚に強烈に訴えかけてくるとともに、さらなる勘違いを引き起こす。さすが無敵王子、その威光は鳥類にさえ及ぶんだ──と。  つられてひざまずきかけたとき、枠から引きちぎる勢いで階段室の扉が開閉した。  荒々しい靴音と、 「くっそ、見つけた。ふらふらふらふらトンズラこきやがって、リードをつけるぞ!」  怒声がほんのり甘いムードを吹き飛ばした。  ずんずんと詰め寄っていきながら、大和のレーダーは激しく反応した。兄弟間の正当なスキンシップと偽ってペニスを握らせたら、空良はこれっぽっちも疑わずにしごき返す。  カモられ体質のネンネだから、すっかり油断していた。当麻を見る目つきは、カノジョ持ちの連中のそれに似通っている。総合的に判断して恋という卵が産み落とされた。  冗談じゃねぇ、と大和は上履きの(かかと)を踏みつぶした。  俺色……もとい、俺とタケ兄のカラーに染めるべく腕によりをかけて仕込んでいる最中に、よその男にのぼせるとは、精液が煮詰まるまで寸止めの刑に値する。自覚症状がないうちに卵を踏みつぶさなくては。  まずは、この場からつれ出す。 「五時限目は平常点が辛ぇ日本史だぞ。遅刻したら減点食らう、急げ」 「まだ、お弁当を食べてないのにぃ」 「一食抜いたくらいで死ぬか。ほら、行くぞ」  ぐいぐい腕を引っぱられて、空良はつんのめった。一輪車か何かのように階段へと引きずっていかれて口をとんがらかす。

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