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第42話

 おにいちゃんズがいがみ合っている間に、空良は自分のペースを取り戻した。  予行演習だ、と裏筋をついばむ。奇蹟が起こって当麻のに頬張る日が訪れないとも限らないから、しっかり練習しておこう。  そう、練習を──ちぢれ毛が鼻の穴に入ってクシャミが出た。はずみで、がぶり。  ギャッ、と武流がひと声叫んで飛びあがった。自らペニスを、しかも口に突き入れる形に腰が跳ねたのが災いして、さらにがぶり!     当・麻・の・ご・子・息・を・頬・張・る・練・習。  立体的な太文字がひと塊に落ちてきて、押しつぶされるようだ。空良は、その塊を持ちあげるように掌を上向けた。  ありえないことを夢想することじたい、ありえない。ローターという異物の存在が、奇天烈な妄想を生み出したのだろうか。  大和は、といえば。武流が、いわば途中で棄権したのをガッツポーズで祝った。そして焦らしに焦らされた腹いせに顔射でフィニッシュといこう、と決める。  歯形も生々しいペニスを摑んで床をのたうち回る、武流をぬいぐるみの横に蹴り落とす。それすらもどかしく、前髪を鷲摑みに空良を仰のかせた。  今なら釘だって打てる、というくらいの硬度を誇る屹立で唇をこじ開けにかかり、ところが(かんぬき)がかかっているようにびくともしない。 「おい、エコヒイキは許さねぇぞ。俺のも、ちゃんと銜えろ」  このとき空良の魂は肉体を離れて、天井の近くをさまよっていた。  ペニスで頬をぺちぺちと叩かれようが、ちょんまげと称してペニスを頭に載せられようが、マネキンさながらされるがままだった。無意識のうちに尻尾を引き寄せて、モフる。  たとえばパン屋を営む家の子どもは、接客を手伝うことがあるだろう。ざっくり分類すれば試作品のモニターを務めるのも同じくくりに属し、さらに別の効用がある。  おにいちゃんズと濃厚に触れ合うのは武流曰く「兄弟の絆を強めるのに役立つ」。  要するに一石二鳥だ。それが前提条件で、当麻は敬慕の対象でも、彼のムフフを云々は条件に当てはまらない。  堆積物が雪崩を起こしたように頭の中はしっちゃかめっちゃかで、謎を解き明かす鍵がどの地層に埋もれているのか皆目見当がつかない……。

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