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第43話
先端がぬるぬるする棒状のものが、しつこく唇をつついてくる。空良はなかば放心状態で、ドアレバーを握って押し下げる要領で、摑んでひねった。
途中でやたらと固い瓶の蓋を開けるふうにイメージがすり替わり、そのぶん力が加わったのは、大和にとってはご愁傷さまというしかない。
「ぐぇええええええ……っ!」
絶叫が壁を震わせたのにつづいて、何かが床に転がり落ちた。どすん、ばたんという残響に、メールの着信音が伴奏をつける。
空良は依然として夢とうつつの境目をふらふらしながら、あたりを見回した。そして目をぱちくりさせた。
おにいちゃんズは、どちらも干からびたサラミソーセージのように赤黒くしなびたペニスが丸見えの恰好で、ぐったりと横たわっている。瀕死の蛙のように、ときおり手足をひくつかせて。
こめかみをクルクルと揉むと、ひらめいた。
空良の部屋は東向きで、朝のうちは特にまばゆい陽光が、今しもむき出しの股間かけること二の上で縞模様を描く。
「きっと、おお兄ちゃんが新手の健康法を編み出したんだ。おちんちんを日光消毒すると発育がよくなるとか」
だったら寝かせておいてあげよう。そろりそろりと尻でいざって後ずさる間も、ローターがいかがわしく蠢く。襞がむずかるのと連動して、先っぽがちりちりと疼く。
射精 したい? とペニスに問いかけると、うなずくように揺らめく。
やんわりと握りかけたせつな、大和が言う乳搾りは、しごきっこの婉曲的な表現なのだとやっとわかった。
と、いうことは自分だけすっきりするのは、おにいちゃんズに悪い。えいっ! と尻尾を引き抜いてパーカとハーフパンツに着替える。メールをチェックすると、それは二年四組の生徒宛に一斉送信されたものだ。
会心の作だ、という本文に夏至祭で上演するクラス劇の脚本が添付されていて、文芸部員の和田が脱稿するなり送ってきたようだ。
「おれ、主役なんだもんね。うう、武者震いがするぅ」
ぺたりと正座して〝チンデレラの憂鬱〟と題された脚本を読みふける。内容はシンデレラを下敷きにしたコメディで、継母 は原典通りだが、ふたりの義姉ならぬふたりの義兄が登場する。
キーパーソンにあたる魔法使いと王子は、それぞれ異星人と日本一の御曹司に置き換えられていた。
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