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第44話

 チンデレラは両性具有という設定がミソだ。劇の前半ではブサかわ系のマッチョ、後半ではスーパー美少女へ変身するあたり、実質的にひとり二役をこなさなきゃで、なおさら責任重大だ。  またシンデレラのお約束に従ってチンデレラのほうも、義兄たちからいびりたおされるわ、(しいた)げられるわ、パワハラ・モラハラなんでもありの扱いを受ける。  空良も本番当日は舞台の上でいたぶられるわけだが、 「お父さんとお母さんが再婚して三兄弟になった家族構成、うちとそっくり。でもチンデレラにはごめんなさいだけど、おお兄ちゃんも、ちい兄ちゃんも優しいもんね……みゅん……っ!」    快感の切れ端が蕾にひそんでいて、それが悪戯した。尻尾つきのローターが、カモンと呼んでいるように輝いて見えたが、フードを目深にかぶって誘惑を退ける。  意識をスマートフォンに戻し、そこで知らない単語にぶつかった。  シンデレラといえば、十二時の鐘が鳴ると同時に魔法が解けて、シンデレラが走り去ったあとにはガラスの靴が片方残っている場面がつとに有名だ。  対するチンデレラは貞操帯が剝がれ落ち、のちにチンデレラを探し当てる手がかりとなる──?  帯という字が含まれているくらいだから、貞操帯は名古屋帯の親戚なのかもしれない。物知りの武流に訊けば、貞操帯とはこれこれこういうものだ、と図解つきで教えてくれるはず。  ただ、おにいちゃんズの顔には、独自の方法でペニスを殺菌しているうちに三途の川の(ほとり)にさまよい出たような死相が現れ、そのまま寝落ちしてしまって起こすのは可哀想だ。  第一、貞操帯について質問したが最後、藪蛇になると第六感が告げる。  折りしも、おなかが盛大に鳴った。三人分のサンドウィッチを作り、自分の分を持ってテラスに出た。  椰子の葉ずれがさやさやと歌い、海岸まで徒歩五分というロケーションも相まって、居ながらにしてリゾート気分を味わえる。  ガーデンチェアに腰かけて、隣の家の庭先でこいのぼりが泳ぐさまを眺めながらサンドウィッチをぱくついていると、今さらめいてドキドキしてきた。

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