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第45話

 主役は科白がたくさんあって、ちゃんと憶えきれるだろうか。演技経験がゼロの身で、チンデレラになり切れる? 不安材料だらけでもベストを尽くさなくちゃ、だ。  それから他の配役は自薦、あるいは他薦を受付中で、結果は連休明けに発表するとのこと。 「ちい兄ちゃんを推したいなあ」  背が高くて絶対に舞台映えがする。だから御曹司役なんかピッタリだ。ただし、とはいえチンデレラとのキスシーンがあるのが難点だ。  兄弟で、人前で抱き合ってチュッ! なんて照れ臭さの裏返しで噴き出してしまいそう。では相手役が誰ならモチベーションにつながるかという以前に、 「科白を度忘れしてグダグダになるかも」  十分、ありうる。ミョウガをうっかり食べて迷信のとおり忘れっぽくなりました、ということにならないように気をつけよう。  パンくずをスズメに撒いてやって、ついばむ様子を眺めているうちに、あくびが出た。  足を胸に引きつけて、座面にちんまりと収まって微睡む。そして夢路をたどる。  ヴェルサイユ宮殿の大広間のような場所で、キンキラキンの床に這いつくばって雑巾をかけているところに、トーマ王子こと当麻遼一が燕尾服のテールをなびかせて登場した。  うわぁ、カッコいい。寝顔がウフフとほころび、夢はいっそうハチャメチャな展開を見せる。  雑巾がフリルの洪水のようなドレスへと変わり、空良はドレスの下に貞操帯──は謎だから力士と同じ廻しを締めた姿で、何万枚ものクッキーを焼いていた。  チンデレラ、と呼ばれて振り向いたせつな運命の赤い糸に搦め取られて、掃除機のコードを巻き取る要領で当麻の元へとたぐり寄せられていく。  ──一曲、お相手ねがえますか。  当麻が足下にひざまずき、手を握り返すと銀河にワープ! ダイヤモンドをちりばめたようにきらきらしい天体を背景に、北斗七星でタピオカドリンクを掬って飲んだり、宇宙限定販売の金平糖を「あ~ん」をし合ったり。  壮大なスケールのデートを満喫している最中も、当麻はときおり苦悶の表情を浮かべ、そのたび地表が氷で覆われた冥王星に全身を映してポーズをとる。  発作に襲われる原因は、聞くも涙の物語だ。

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