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第46話

 ──五分に一回は鏡を見ないと、禁断症状が出て狂い死にする呪いにかかっていてね。 「なんて残酷な宿命、可哀想……」  寝言にすすり泣きが混じる。呪いを解く方法は命を()して愛してくれる人とのくちづけ。その筆頭候補は──救急車のサイレンが夢の中ではドラムロールへと変換されて鳴り渡った──他でもない空良だというのだ!   くちづけ、くちづけだって、うひゃあ。身悶えするふうに背もたれに頬をすりつけていけば、ふたつの人影が陽光を遮った。 「人のチンポをへし折りかけたくせして暢気におねんねかよ。にたにたしくさって、マジにムカつくわ」 「僕なんか嚙みちぎられるところだったんだよ? 当然、お仕置きだね」 「てめぇ、起きろぉ!」  耳許でわめき散らされて、空良は電気ショックを与えられたように立ちあがった。すかさず椅子を蹴り飛ばされて尻餅をつき、寝ぼけ眼をこすりながら、険悪な形相一号、二号を振り仰ぐ。 「あのね、聞いて? すっごく素敵な夢を見てて……」  そう、ふにゃあと笑いかけるはしからデコピンを食らった。 「坂下のヨシマツ屋でみそ餡の柏餅を買ってこい、五分で買ってこい。遅れたらケツバットの刑だ」    大和が、アラームをセットしたスマートフォンをひと振りした。空良は全速力で、()つ近道して──すなわち神社の裏手にそびえ立つ、百段あまりの石段を上り下りして行って帰った。  すると武流が玄関先で待ちかまえていて、大げさに呻いて曰く。 「悪気がなかったのはわかってるけど、嚙まれたところがずきずきして。化膿すると大変だから坂の下のハシモト薬局で傷薬を買ってきてくれないかな。ごめんね、いっぺんに頼めばよかったね」 「ぜんぜん平気。いってきまぁす」  二回に分けておつかいを頼んだのは、もちろんわざとだ。ペニスにおよそ全治三日の痛手をこうむったからには、落とし前をつけてもらう。  初フェラチオからの初口内発射の目論見が外れた武流の恨みは深い。  フェラチオじたい堪能しそこねた大和の恨みは、もっと深い。  その後も〝坂下のどこそこの店〟と念を押したうえで、何々を買ってくるというミッションを与えつづけた。

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