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第49話

 空良が社殿の前でパニクっていた折も折、当麻はたてつづけにクシャミをしていた。  風邪をひいたわけではないし、コショーの粉を吸い込んだせいでもないのにクシャミが出るのは、誰かが噂をしている証拠だと俗に言う。  生徒会長とは、海鵬学院という王国を()べる者。ゆえに噂の的となるのは有名税といえる。  優雅な手つきで髪を撫でつけながら、キャスター付きの椅子ごと一回転するにつれて、何十人もの〝当麻〟が生身の彼を見つめ返してくる。  自宅の自室で受験勉強にいそしみ、ひと息入れようとしたところだが、六畳大の万華鏡といった(おもむき)があるこの部屋は、聖域だ。  姿見、壁掛け鏡、手鏡にスタンドミラーと鏡があふれ返り、当麻という美しい模様をさまざまな角度から映し出す。  参考書を伏せた瞬間、またもや鼻の奥がむずむずした。クシャミが出るさいには脊髄反射で目をつぶってしまうものだが、根性で堪えてスタンドミラーをガン見する。  ほう……と、ため息がこぼれる。顔がくしゃくしゃになっているときでさえ類い稀に麗しいとは、我ながらなんという罪作りな生き物だろう。  テンションがあがりついでに〝生徒会〟と題したノートを広げた。  六月の第三土曜日と日曜日の二日間にわたって開催される夏至祭を(もっ)て、現生徒会執行部から新生徒会執行部へと代替わりする。  歴代一の生徒会長と語り継がれるよう、夏至祭を成功へと導いて有終の美を飾りたい。  中等部と高等部を合わせて全三十クラス。  各クラスの演目を表にまとめたものに目を通す。来たる夏至祭当日にはダンスパフォーマンスを繰り広げるクラスが多いのが、今年の傾向だ。演劇は根強い人気があり、計五クラスがその旨の申請書を提出してきた。 「おねえキャラが安直に大量生産されるのは男子校あるあるだな……二年四組も劇か」  一覧表を指でなぞっていき、二年四組の欄に限って赤丸で囲む。それから背もたれを軋ませてのけ反り、シート状の鏡を一面に貼りつけてある天井を仰いだ。  眼福とはこのことだ、と桃源郷で遊んでいる気分をひとしきり味わったあとで頭を切り替える。

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