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第51話

 ただし、鏡に囲まれて快感を貪るやり方には大きな欠点がある。感じすぎて、あっという間に達してしまうのだ。  現に蓋をかぶせるように鈴口をこすると、カウパー腺液で指がぬらつく。淫靡な水音が足の付け根でこだますると、それはメロディアスに鼓膜を震わせて、法悦境へといざなう。  艶、形、平均値を上回るサイズ。  三拍子そろったペニスが屹立したさまは官能美にあふれて、この素晴らしい情景の前では、古今東西の名画ですら紙くずも同然だ。  宝玉がこりこり感を増して秒読み段階に入る。椅子がゆさゆさと揺れ、ストッパーが弾け飛ぶ。 「発射オーライ、ゴー……っ!」  解き放つ瞬間の凛々しさとエロさがない交ぜになった表情(かお)は絶品で、まばたきする暇も惜しんで見入るのが常だ。  ところが異常事態が発生した。熱液が迸るにしたがって、黒目がちの愛くるしい顔が目の前にちらつく。  賢者タイムが反省会に変じた。  議題、よりによって極めているさなかに集中力が途切れた原因を突き止めよう。  当麻はひとりっ子で、鏡に映る自分を双子の兄弟に見立てたごっこ遊びにしばしば興じたものだ。  それが高じて弱冠三歳にして自分自身に初恋を捧げて以来、一途に愛を貫いてきた。  筋金入りのナルシストが、今さら宗旨替えをして他者に特段の関心を持つ?   苦笑を洩らした。確かに小沢空良は齧歯類に相通じる愛嬌がある、と認めるにやぶさかではない。やぶさかではないが、だからといって彼に好意を抱いていると結論づけるのは早計にすぎる。  エクスタシーの高波にさらわれるさいに雑念が忍び込んだのはだ、あくまで。  ただ、当麻先輩と呼びかけてくる声が耳に甦ると、ときめきが止まらない。

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